第52話

“大丈夫”
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2019/12/27 10:21
犯人は――――1歳くらいの男の子だ。いることはわかっていたが、予想より大きくてびっくりしてしまった。

幸太こうただよ。幸せに太いで幸太。頭撫でられるのが好きだから、よかったら撫でてあげて?」

にっこり笑う梨沙。

私はじっと幸太くんを見た。くりくりした瞳が見返してくる。顔立ちはあいつに似てしまったようで、なかなか整っていた。

「……よろしく。幸太くん」

「あいっ!」

「おぉ、すごい……返事できるんだ。すごいね」

できるだけ優しく頭を撫でてあげる。幸太くんは嬉しそうにして、お母さんである梨沙のところへ駆けていった。

梨沙はんしょ、と言いながら幸太くんを抱えて膝の上に乗せ、私に向けて笑った。

「とにかくさあなたちゃん。あいつとのことはもう忘れていいんだよ。それで、新しい恋して?
わたしあなたちゃんの恋バナ聞きたいな!」

「……強いね」

「そう?まぁ切り替えは早いからわたし!」

ドヤる梨沙が面白くて笑みを零す。

あの時もそうだった。





中学二年生の秋、梨沙は大学生の人と付き合った。

その人はかなりイケメンだったけど、結構チャラそうだった。梨沙もナンパされて付き合ったって話してきたから、私は反対こそしなかったけど不安だった。

でも、梨沙は楽しそうだった。

毎日笑顔でのろけ話を聞かされ、表面ではめんどくさがりながらも本当は嬉しかった。そんなに幸せなら大丈夫だろうって、勝手に判断してた。

付き合ってもうすぐ一ヶ月という時だった。



梨沙が『妊娠』した。



梨沙の彼氏だったあいつは何の責任も取ろうとしないで、別れることですべてから逃げた。梨沙はまだ14歳で、あいつが支えてあげないといけなかったにも関わらず。

最低な奴だった。もっと梨沙の彼氏のことを知っていれば。真剣に交際を止めていれば。私は、自分を責めて責めて後悔した。

病院へお見舞いに行った時、梨沙は言った。


「わたし、この子を産む。ちゃんと育てるよ」





その言葉通り、梨沙は高校へ通わず立派に幸太くんを育てている。

梨沙と連絡を取らなくなったのはいつからだろうか。私からやめたことだけは憶えていて、余計に罪悪感がいてくる。

――だけど、梨沙は私の後悔を“もう忘れていい”と言ってくれた。

もちろんすぐには無理だけど……また、梨沙と笑い合っていいのかな。

“梨沙の妊娠の原因を作った”私に、そんな権利はあるのかな。

「……文化祭。前、話したよね」

「あぁ、5月?憶えてるよ!楽しかったってあなたちゃん言ってたよねぇ」

曇りなき笑顔で言われて、自分の嘘を思い出す。

本当は楽しくなんてなかったけれど、梨沙には何も気にしないでほしくて。

文化祭の話なんて、――あの男と梨沙が出会うきっかけになった行事の話なんて、世界で一番したくなかった。

なのに梨沙は聞きたがって……強いと思う。すごいな。

……もう、“大丈夫”なのかな。

「そう。で、その後転校したの。だから文化祭二回目を経験してきたよ」

「えっ!?二回目!?いいなー、一年に二回も文化祭を経験できたんだ!それで?どんな文化祭だった?」

きらきらと目を輝かせて梨沙が身を乗り出してくる。私は笑って、いろんな出来事を話した。

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