公立、聖蘭高校。
転校先のそこは、急な坂の上にあること以外は普通の高校だった。
「迫田あなたです。よろしくお願いします」
軽くお辞儀をすれば、形だけの拍手が起きる。
……ま、高校なんてどこもこんなもんだよね。昔は結構夢見てたけど、いざ通ってみると単にだるいだけ。
「それでは迫田さん、あの席に座ってください」
「はい」
担任が指差したのは窓際の一番後ろの席だった。
スタスタと歩いてその席に座った時、隣から声をかけられた。
「ねぇ、迫田さん!どこから来たの?」
右を向くと、少し茶色みのある黒髪を後ろで一つに束ねた女子と目が合った。
「は?」
「あ、由麻ね、春田由麻!湖崎中出身だよ」
湖崎中……知らないな。当たり前か、私この前引っ越してきたばっかだし。
適当に笑顔を作って、最初にされた質問に答える。
「隣の県から来たよ。親の都合で引っ越してきたんだ」
うわ、この口調気持ち悪っ!でも何事もなく高校生活を送るためには重要。耐えろ自分。
「そうなんだ!大変だねー」
「別に普通だよ」
笑顔笑顔……。あーめんどくさ。
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そうして春田さんとの会話を必要最小限にとどめ、SHRが終わった。
ねっむ……友達とかいいからもう寝とこ。
「ねぇねぇ、見て廊下!超ラッキーじゃない!?」
「ホントだ!朝から見れるとかやばっ……!」
不意にそんな話し声が聞こえてきて、私は机に伏せるのをやめて廊下を見た。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。