俺は三上遼介。高校一年生だ。
入学したその日に三人の先輩から告られるほど顔が良く、勉強もスポーツもソツなくこなせる。
そんな人生勝ち組のような俺は、休み時間に幼馴染みの初崎怜と罰ゲームありで神経衰弱をしていた。
結果は、俺の敗北。四枚差だった。
「くそ!また負けた……!」
「また勝ったねーオレ」
怜は赤いパッケージに入れられた板チョコを咥え、手前にパキッと折って食べた。
怒りに任せて睨むが、怜はこちらを見ようとしない。仕方ないので板チョコを一欠片もらった。……食べたくなったんだよ。
俺が板チョコを食べ終わったタイミングで怜が言った。
「じゃあ罰ゲーム。転校生に壁ドンして、『今どんな気持ちだ?』って聞いてきて」
「は?」
――そんなことでいいのか?
「罰ゲームになってなくないか?」
「できないの?」
「できるに決まってるだろ。簡単すぎるから言ったんだよ」
「だよね。いってらっしゃーい」
別の方向を見ながらひらひらと手を振ってくる怜。
……微妙に無視られた気がするけど、まぁいいか。
俺に壁ドンされて喜ばない女はいないからな。
「あぁ。行ってくる」
そうして俺は廊下に出た。
転校生が来たと噂の1組に行こうとすると、ちょうど前からその転校生が歩いてきていた。
隣にいるのは……春田由麻、だったか。結構かわいい顔の奴。もう友達になったのか。
ちなみに会ったことのない転校生を俺が一発で見分けられたのは、一年全員の顔と名前を暗記しているからだ。
怜にはちょっと負けるけど、元々記憶力はいいんだぜ。
さて、――罰ゲームを遂行するか。
「なぁ」
転校生とすれ違う一瞬、声をかける。
それに反応して振り向いてきた直後に俺は右手を廊下の壁につき、転校生を壁に追いやる。
そして転校生を軽く見下ろして、片方の口角を上げた。
「今の気持ちはどうだ?転校生」
数秒間、沈黙が流れた。
分かるぜお前の心は。何を言うか考えてるんだよな。俺に気に入られるような言葉を選んでるんだよな。
嫌いじゃないぜ?そういう奴……。
――と、思っていたのだが。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!