「茶髪男子」という情報のみでわかったらしい二人は、ほぼ同じタイミングで言った。
「初崎怜のこと?」
「初崎怜くんのこと?」
「初崎怜……」
聞いたことあるような、ないような。
「三上くんのそばにいるからあんま目立たないけど、初崎くんもなかなかイケメンよね」
「うん……かっこいいよね」
由麻がぽそっと呟いた。
ここで私の中に“ある仮説”が立ったが、あえて口には出さず別のことを言った。
「ふーん……ここらへんの出身?」
「んー、そのへんはよく知らない。由麻わかる?」
「ううん、由麻も知らない……ていうか、急にどうしたの?あなたちゃん」
由麻に問いかけられ、私は話そうか少し迷った。
『思った通り、変わってないね。あなた』
「初崎怜」の言葉とあの微笑みが蘇る。
……あの人が私の知り合いだって確証はない。はっきりするまでは言わないでおくか。
登校したクラスの女子達がさっきから聞き耳立ててきてるし。
「昨日ボール拾いに行った時ちょっと話したから気になっただけ。それよりみう、そろそろHR始まるけど席戻んなくていいの?」
「おぉっ、そうだわ!ありがとあなた!」
みうが自分の席に走っていって、聞き耳を立てていた女子達もわいわいと会話を始める。
私は頬杖をついて小さく息を吐いた。
結局、詳しいことはわからず終いか……。初崎怜……んー、小さい頃から親の転勤であちこち行ってたし、もしかしたらそのどっかで会ったのかな…………わからない!
思考を放棄して、私はさっきより少し大きいため息をついた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。