自分のクラスに戻るため廊下を進んでいく。
俺は何が何だかわからなかった。
「…………」
思い浮かぶのは、1組の教室を出る前に見た迫田あなたの顔。
なんだあいつ……?急に顔真っ赤にして……。俺にあそこまで言ったんだから俺を好きなわけはないとわかってるけど、それにしては赤すぎなかったか……?
「おかえり。……どうしたの?」
「あー、ちょっとな……」
席についた俺の表情で何かあったと察した怜に聞かれ、俺はなんとなく言い淀んだ。
いつもはその雰囲気を出しただけでも気を利かせて引いてくれる怜だが、この時は何故か質問を重ねてきた。
「転校生と喧嘩でもしたの?」
見れば、板チョコを食べることすらやめている。
内心驚きつつ、俺はさっきの出来事を頭の中で整理した。
「……よくわからねぇけど、そんな感じだ。俺を嫌い嫌いって理由つきでズバズバ言ってきやがったから、ムカついてキスしたんだよ。そしたらあいつの顔真っ赤になって……」
「……え。キスしたの?」
「あぁ」
「ふーん……」
怜は何か考え込むような素振りを見せた。そして、一言。
「よく失敗しなかったね?キス、『初めて』なのに」
「ぉまっ……今“初めて”をわざと強調しやがったな!?」
「だったらなあに?」
「っ、お前はしたことあるのかよ!!」
「あるけど」
さらりと普段通りの無表情で言った怜。
……だから俺をからかえるのかよ。そうかよムカつく。
「落ち込まないで遼介。仕方ないよ、過去は変えられないんだから」
「うるせぇ!!」
怒鳴った俺に、怜はくすりと笑った。純粋に楽しそうな表情で。
俺、どうやったらこいつに勝てるんだ……。
「オレ今日の放課後部活休むね。中村先生によろしく」
「わかった。用事か?」
「そんなとこ」
怜が口の端に笑みを浮かべた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!