私とれいくん……改め怜は、静かな公園のベンチに並んで座っていた。
「あー、マジでびっくりした。まさか怜とこんなところで再会するとか」
「保育園の場所とはかなり離れてるしねここ」
「そうそう」
日本の端と端……まではいかないが、所属する地方が違うくらいには離れていた。通っていた保育園は近畿地方、今いるのは関東地方である。
「怜はあの引っ越しでここに?」
あの引っ越し、というのは怜と離れる原因になった、初崎一家の引っ越しのことだ。
確かあの日は大泣きしたな。今では考えられないほど泣いた。……思い出すと恥ずかしいからやめよう。
「うん。それからずっと住んでる。あなたは?」
「私は親の転勤であちこち行って、10何回目かでここに来た感じ」
「じゃあ会えたのって本当に偶然だね」
「だね。奇跡だ」
ははっと笑いが零れる。
怜に会えたから、転勤も案外悪くないな。
……あの時も、転勤に本当に救われたし。
「ねぇあなた。オレに会うまで、『何か』あった?」
ドク……と心臓が鈍く鳴る。
しかし私は焦りを微塵も感じさせない完璧な笑顔を作り、怜に笑いかけた。
「何もないよ」
怜の瞳が鋭く光ったように見えて、私は追求される前に話題を変えた。
「それより、怜のこと忘れててごめん。あんなに一緒にいたのに」
「いいよ気にしなくて。オレもまた会えるなんて思ってなかったし」
怜は少し微笑んで言った。
無表情の時も顔が整ってるのは分かるけど、怜は笑った方がかっこいいと思う。少なくとも、私は笑ってる方が好き。
だが怜は私の思いに反して、無表情に戻りいつの間にか出していた板チョコを咥えてパキンと折って食べた。
……昔より笑わなくなったな。まぁ高校生男子はそんなものか。
と納得はしたが、相手が怜なので私は自然と思ったことを声に出していた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。