「別にいいよ」
私の声は、驚くほどはっきりと中庭に響いた。
うわ、ちょうど静かになった時だったのか……最悪。
私は発言を後悔したが、これはなんとなく最後まで言わないとダメなことのように感じていて、口を動かすのはやめなかった。
「怜だから。嫌とか思わないよ。その頃、私も好きだったし」
言い終えて、唐突に気がついた。
三上で耐性ついたからかな。こんな状況なのに、自分でもちょっとびっくりするくらい私、冷静だ。
ほぼ生徒で構成されるギャラリーは、しんとしていた。この会話の先を聞きたいのだろうか。聞き耳を立てられている気配にため息をつきたくなった。……懐かしいな、これ。
怜が私を驚いたような表情で見つめ、そして吹き出した。
『本当?あの頃、あなたもオレのこと好きだった?』
「うん。大好きだったよ、愛してたかも」
『あははっ、そっか両想いだったか……!好いてくれてるのはわかってたけどそっちの意味だとは気付かなかったよ』
「へぇ……」
怜って好意には案外疎いのか。もしかしたら好きな相手限定で、とか?
何故か笑い続ける怜につられて、私も笑顔になった。
不意に怜が真面目な顔をした。
『ねぇあなた。言いたいことがあるんだけど、聞いてくれる?』
「うん。何?」
普段の表情に戻って聞くと、怜は間をあけて、すぅっと息を吸った。
『……オレと』
「待て!!!」
マイクを通したものより大きな声が中庭にいる全員の耳を劈いた。
聞き覚えのある声だった。程よい低さの、よく通る耳触りのいい低音。
「……遮って悪い怜。マイク、貸してくれ」
ステージに上がった三上は、そう言って怜に片手を伸ばした。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。