……しまった。
「どこ行った!?」
「あっちかも!行ってみよ!!」
バタバタバタ……といくつもの足音が遠ざかる。
それらが完全に消え去ってから、私はみう、由麻と揃ってため息をついた。
「なかなか諦めてくれないね……」
「マジでしつこい。人数が人数だからすぐ捕まるし」
「……ごめん二人とも」
「全然!」
「いいんだよ!あなたちゃんといたくているんだから!」
そう笑ってくれる二人に、「ありがとう」と言いながら少し微笑み返す。
告白大会直後の、午後。
三上から告白された私は、全学年の三上教信者達に追いかけ回されていた。
今は女テニの部室に隠れている。ここにいればまず見つかることはないが、何時間もここで過ごすわけにはいかない。部室は隠れ場所ではないのだ。
「はぁ……三上の前にこっちがあったとは。失敗した」
「まーどっちみち避けられない運命だったでしょ。てかすごい告白だったねー」
「だね!あんな風に言われるなんて、いいなぁあなたちゃん……!」
「代わる?」
私はマジトーンで言った。由麻は「ん、んー、遼介くんにはいいかな……」と苦笑いしてきた。――ですよね。
「……ん」
足に振動を感じて、スカートのポケットからスマホを取り出す。スマホの使用は校則で禁止されているが、文化祭など、学校行事の際は許可されている。
その画面を見て、私は目を見張った。
「……ごめん二人とも、電話出てくる。戻ってこなかったら二人で回っていいから」
「?ここでしないの?」
「じゃあ」
由麻の問いかけには答えず、部室のドアを開け、外に出てそれを閉める。
未だバイブしているスマホ。画面に表示されているよく知った名前が、私の心の奥から後悔を引っ張り出す。
出よう。早く出ないと、切れる――――。
「いた!!」
誰か女子の大声でハッとして、私はスカートのポケットにスマホを突っ込み走り出した。
体育館近くに位置する女テニ部室から校舎内へ入り、階段を駆け上がる。その途中で、追ってくる足音が多くなっていることに気付いて焦りが増した。
やばい……これは、捕まる……!
無我夢中で角を曲がった瞬間、急に腕を掴まれて体が右へ傾き、そのまま部屋の中へ引っ張り込まれた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!