「…………」
「…………」
グラウンドの端で、私と三上は立ち止まって見つめ合う。
テニスコートまではまだ距離があり、こんなところで会ってしまうとは思っていなかったため事態に頭がついていかない。
ていうかあれ、こいつってこんなにかっこよかったっけ。
「……よ、よう」
三上がぎこちなく片手を上げてきた。普段そんな仕草しないくせに……。
しかし私も人のことは言えなかった。
「……うん」
地面を見ながら頷いたのだ。
そんな人見知り全開みたいなこと、絶対やらないのに。
「……あ、あー、俺その、部室に忘れ物してそれ取りに行くところだから行くな」
「……そう。じゃあね」
下を向いた状態で三上の横を過ぎ去る。
やばい、声までかっこよく聞こえた。顔上げるなよ自分、リンゴレベルに赤いの見られたくないだろ。
そろそろいいかと思った時、いきなり肩を掴まれて――体が勝手に後ろを振り向いた。
三上とバッチリ目が合う。
――何故か、自分の顔がボッと火を噴いた。
えっ!?なんで!?
「っ」
慌てて元の向きに体を戻し早足で進む。
待って私変、すごい変……!さっきから赤くなりすぎ!
「――迫田」
ハッ、と気付いた時にはもう右手を三上に取られていた。
「来い」
強い力で引っ張られ、グラウンドとは逆方向へ一緒に走らされる。
振りほどけない手に男女の力の差を感じて、あぁ男子なんだ、なんて当たり前なことを考え、私は抵抗もせずにただ走った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。