「…………」
カタツムリもびっくりの遅さで物音のした方へ顔を向ける。
そして目に飛び込んでくる、見覚えのある後ろ姿。
「…………」
三上が、静かに手で顔を覆った。
あ、これ全部聞かれてたやつ……。
「れええいい!?」
「そんなに怒らないであなた」
「えっ普通に怒るよ、怜だから言ったのにこんなのないマジで」
早口でまくし立てれば「あはは」と笑う怜。
あの、本当笑いごとじゃないんですけど。“惹かれるところはある”とか言っちゃったんですけど私。聞かれちゃったんですけど本人に。
「……迫田」
ドキッと心臓が跳ねる。
視線をやると、少し顔の赤い三上と目が合った。
「話がしたい。嫌なら逃げろ」
――逃げろ?うん、逃げたいな。
でもさ、今逃げても敵しかいないんだよね。
四面楚歌ってこういうことを言うの?
「じゃあオレは出るよ。ついでに女子達の気引いとく」
「頼む」
「うん」
私が口を挟む間もなく会話が行われ、怜は会議室から廊下へ出た。
……もう、どうでもよくなってきた。
「話って何?三上」
全部聞いてやるよ……どうせ私の本音バレてるし逃げられないし。
げんなりした気持ちをどうにか表に出さないようにして、私は尋ねた。
「……そっち行くぞ」
三上が立ち上がり、歩み寄ってきた。対話にちょうどいい距離で止まると床に座り込む。
来てどうするんだろう……まぁいいけど。
「まず確認する。さっきお前が怜に言ってたことは本当か?」
早く話を終わらせたかったため、私はテキパキと答えることにした。
「そうだよ」
「俺のこと、嫌いではないのか?」
「多分ね」
「そうか……そうか、嫌いじゃないのか」
「何……」
何故繰り返したのか聞こうと三上を見て、先の言葉が消えた。
……意味わからない。好きって言ったわけじゃないじゃん。
なんで、そこまで嬉しそうに笑うの。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。