柔らかに降り注ぐ陽射しに目も慣れ始めると、こちらを見下ろす少年の顔が少しわかるようになってきた。
白いTシャツに右と左にポケットが一つずつついたような、とてもシンプルな半パンを組み合わせた格好。
ところどころ跳ねている黒髪の、同い年くらいの男の子のようだった。
今まで聞いたようなどの声とも違う。
とても優しそうで、子供らしい少年の声。
そんなことばかりに気をとられていて、奏楽は少年の問いに答えることができずに少年は奏楽が口を開こうとする前に、先に手を差し出した。
一人でも立てたが、気を遣ってもらった少年に対し、奏楽は照れくささのようなものを感じながらも小さく礼をいった。
すると、少年もはにかむように頭の後ろに両腕を組んで、笑って見せた。
書いて見せるように左手のひらのうえを指でなぞるようにして答えながら、奏楽も少年と同じ問いを返した。
奏楽の答えを聞いた途端目を輝かせて、少年は何がなんだかよくわからない奏楽の両肩を強く掴んだまま、こう答えた。
驚きを隠せない奏楽に、目の前の空はただひたすらに眩しい笑顔を振りまいて笑った。
そら…。
そらって名前なんだ…。
同じ名前の少年に出逢った。
ただそれだけの偶然。
いや、ただそれだけの”できごと”が奏楽にはどこか”とくべつ”な名前(モノ)に聞こえる響きだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。