第9話

別れは朝焼けともに
27
2017/10/27 15:44
あれから奏楽は少年とうまく話せないままだった。



だが、あの問いかけを口にしないままほんの数分時間を置くと次第に少年は何事もなかったかのように初めのころと変わらない

はしゃぐような笑顔を見せ始めた。

しかし、以前のはしゃぎとは少し違ってあの一瞬に見せた哀しそうな寂しさはまだその瞳に残っているような気がした。

さて…と そろそろかな…
奏楽
え…?
黙り込んだままずっと隣り合っていた奏楽と少年だったが、何かを察した様に突然、彼は奏楽の隣を立った。
奏楽。どうしても、伝えておきたいことがあるんだ
奏楽
え…なに?いきなり…
哀しそうだけど、何処か真っ直ぐで。

真剣な目はなんだかくすぐたっくて視線を逸らしたかったが、何かを伝えようとしている空にそんなことをしてはいけない気がして。

奏楽も、まっすぐに空を見つめ返した。

決意を固めるようにひとつ、大きな深呼吸をして空はゆっくり語り始めた。
………ここは、奏楽のたった一夜の夢にすぎないんだ
奏楽
………。
意味など、理解はしていなかった。

奏楽はただ、懸命に続きを綴ろうとする空の言葉を待った。
奏楽…さ、オレがもしこの姿が本物じゃないって言ったら…
ほんとのオレ、なんだと思う…?

    人間である 空 の姿は、本当の姿じゃない。



跳ねるような黒髪も、はしゃぐように笑って見せた顔も

本物じゃないとして…

自分に似た寂しそうな声。

ひとりは   ひとつぼっちは嫌だと泣いていた声は…




         まるでーーー…

奏楽
…………”そら”、かなぁ
 陽射しの差し込む空を見上げて、ふと浮かんだ答えが口をつく。

その問いの答えだけはなぜか手に取るように迷わず答えた。
な、なんで………
 奏楽の答えが予想外だったのか、空は驚きを隠せないといった様子で――……………いや、違った。

驚いたというより、泣き出しそうな顔に近かった。

そしてそれは、悲しいという感情からの涙ではない気がした。
奏楽
分からない。分からないけど、解る気がするんだよ…似ている気がするから
似てるって……同じなのは名前だけなのに?
奏楽
そうじゃないよ
 涙目できょとんとして首をかしげる空は、なんだか少し可笑しく思えて、奏楽はくすりと苦笑いをした。
奏楽
僕らは、独りが怖いことを誰より知ってる。
そして独りじゃないことのしあわせを誰より解ったじゃないか
あ……
自然な声をこぼす、空。

 その姿がぼやけ始め、突然、視界がぐらつきだす。

景色がゆがむように霞んで揺れるような感覚になる。





朝の訪れ。



夢は  ……覚める。










          ―――…サヨナラも、交わせないままで。

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