―――pipipi…
目覚ましが鳴り響くそんな朝の始まり。
なんだ…、子どもの頃の夢かぁ。
広く澄み渡った朝の空。
今日もいつも通りの朝。
かつては少年も周りの友人たちとなにも変わらない、ただの少年だった。
幼少のあの頃、原因不明の病気によって声を失くすそのときまでは。
不運な事故によって家族を失い独り、この世界に残されるまでは。
口のきけない、血のつながりだけの少年に
誰も話しかけてくれようとはしない。
ただ朝からずっと、窓からずっと。
空を眺めてばかりの少年の側は、空っぽのままで。
誰とも口のきけない、声を失った少年:奏楽(18)。
『おはよう 奏楽』
(おはよう 空。今日もいい天気になったね)
声を失った少年は今、この空と”ひとつ”に支えあって生きている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。