日直の号令の後に続いて、あたしを含めた生徒らの声が重なって教室に響く。
皆がバラバラと帰っていく様を見ながら、あたしは教室の真ん中にかかった時計の針の動きを目で追う。
(…斗真、遅いなぁ…)
静まり返った教室で、私は人を待っていた。
フルネーム、風桐 斗真(かざぎり とうま)。
この学校一の…いや、もしかするとそれ以上かもしれないほどかなりのイケメン。
イタズラな瞳や、優しげな笑顔。
無邪気な好奇心や、たくましさ。
その魅力を語りだせば、きっと女子たちの言葉が止まることはない。
以前街中で芸能プロダクションにモデルのスカウトを受けたけど、断ったこともあるんだとか。
そんなんだから彼は、今この学校では当然圧倒的にモテる。
それにたいして、特別ずば抜けた才能もなければ、スタイルや顔がいいというわけでもない平凡なあたし。
雲泥の差とも言える、高嶺の花。
しかし、そんな彼とあたしはー…、、
勢いよく扉が開き、教室のドアから顔をのぞかせる斗真に一言返事をして、中途半端にかけていたスクールバッグをかけなおして斗真に駆け寄る。
甘えた声でデートに誘ってくる斗真に、強がってそう返しては見たものの、まんざらでもなくて自然と笑みがこぼれる。
わざととぼけてみせると、斗真は慌てた様子で聞き返してきた。
もちろん、ほんとは忘れてなどいない。
わざと焦らすように言ってみると、斗真が口をとがらせて言い返す。
まるですねちゃった子どもみたいだ。
そんな斗真の姿を見て、私ははぁーっと大きくため息をついて口を開いた。
その途端に斗真がぱぁぁっと目を輝かせながら笑う。
あたし自身、斗真との時間はとても楽しんでいた。
特別ずば抜けた才能があるでも、美貌があるわけでもないあたし。
そんなあたしが斗真みたいな素敵な彼と付き合えるなんて夢みたいだった。
ふとぶつかった手を二人強く、握りあう。
あたしたちは、愛し合っている。
そして、これからもー…
でも そんな幸せは長くは続かなかったー…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。