そして通ってきた道の先に見えてくる学校。
ここが、すべての始まり。
授業中の時間帯なので、人はいないと思うが一応周りに注意してこっそり校舎裏へと回る。
校舎裏にはちょっとした庭のような広場がある。
普段からひとけはなく、授業中に限らず放課後だってあまり人のいない、いわば知る人ぞ知る穴場スポットみたいなものだ。
(ここなら… きっと誰にも見つかんないよね)
上のクラスが、数学の授業なのかどこからか先生の淡々としたそんな声が聞こえてくる。
そうやってクラスの声に耳を澄ましたり、周りをただぼんやりと眺めたりする時間は早く流れて、
昼休み。
5時限目。
6時限目。
清掃。
HR。
気付けばあっという間に赤く染まりあげた夕暮れの空はすっかり太陽が低くなっていた。
(ん、そろそろ帰らなくちゃ…)
小さくため息をついて立ち上がると、昨日ポケットにしまったままだった携帯電話の存在を思い出し、時刻を見てふと、昨日の夢を思い出した。
(『6時に、ここで待ち合わせ……』)
そういったのは夢のなか。
でも、あたしはそのまままた、その場所に腰を下ろした。
(ん…誰か呼んでる…?ていうかこの声…)
いつの間にかうたた寝していたのか、ふと誰かに呼びかけられた声で目が覚めた。
寝ぼけた目で一度その人物を見たあと、あたしは何度も瞬きをした。しかし、見開いた目の先に立っていたのはまぎれもなく、斗真だった。
そういって、斗真は優しく笑った。
目を細めた斗真の微笑んだような表情はずっと隣で見てきたあの大好きな笑顔のままだった。
(夢じゃない。斗真…これ…)
何も返事を返さないまま呆然と見つめるだけのあたしにいつかの日のように、ふくれる斗真。
しかし、その彼は体で隠れて普通なら見えるはずのない夕日が見えた。
透けている。
斗真が、透けている。
これ以外、どうにも言葉にしようがなかった。
確かめてしまった事実にたまらなくなって、斗真にそれだけ残すとその場を駆け出す。
追いかけてくる斗真の声を背中に、あたしは宛もなくただ走った。
斗真が死んだ事実が嘘じゃないかと思いたかったけど、嘘じゃなかった。
あの夜の電話は夢だっただろうと思ってたけれど、夢じゃなかった。
(斗真は…)
涙の膜が張った目で見える景色が滲む。
冷たい風が吹き抜けるのを感じながらまた唇を噛むと、うっすらと口の中に血の味が広がった。
ようやく追いついた斗真があたしの腕をぐんと強く掴んだ。
冬の寒さでかじかんだ冷たさとは違う。
芯から冷え切った、冷たい手。そんなことに気づくたび、現実が深く心に突き刺さる。
いつまで経っても斗真の方を振り向かないまま黙って肩を震わせるだけのあたしの顔を、斗真は不思議そうに覗き込んで、あたしの表情に気づくとそれ以上の言葉を飲み込んで顔を覗き込むのをやめた。
向いあったまま、少しの沈黙が流れる。
そんな沈黙を、あたしの口をついた言葉が断ち切る。
ぎこちない会話。
互いに目を合わせないままで、またしばらく沈黙を置くと今度はしっかりと斗真と目を合わせる。
そういってあたしは、少しずつ、"あの日"のことを斗真に話始めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。