涙声のまま、鼻をすすりながら一礼して部屋を出ようとするあたしをおばあちゃんの声が引き止めた。
(思い出の深い…。商店…。)
おばあちゃんの教えてくれたキーワードを頼りに記憶のなかを探り、やがてひとつの商店が目に浮かぶ。
(あ。二人でよくいった…あそこの商店だ…!!)
顔も見ないで玄関に駆け出しながらおばあちゃんにお礼を告げると、頭の中に浮かんだ商店を目指してただ走る。
走りながら、呼吸でせいっぱいのその状況の中で自然と逢いたくてたまらない彼の名が自然と唇を滑り落ちる。
たどり着いた商店前。
すっかり透明に近くなった斗真が一人、店横の段差に座り込んでいる。
あたしに気づいた斗真が、ぽつりとあたしの名前をこぼす。
何もいわず斗真はそっと右によってくれて、あたしはその隣にゆっくり腰かける。
そう笑った斗真の目にうっすらと浮かんだ涙が、沈む夕日の光に照らされて綺麗に光る。
そのあまりにも悲しそうな横顔に何もしてあげられない無力さにただただ悲しくなって。なんて言葉をかけてあげたらいいのかわからなくて。
とにかく、これ以上つらいことは思い出してほしくなくて…。
あたしは、逃げるようにそう促してこの場所を離れて、斗真が頷く。その日、二人無言のまま帰路についた。
死後49日。
それは斗真がこの世にいられる時間。
斗真とあたしが共にいられる時間は、あと1日だけ。
大切な明日をどう過ごそうか。
そんなことを考えながらベッドについて枕元の電気を消し、目を閉じる。
この世とかあの世とか、もぅ何がなんだかよくわからない。
混乱した頭の中、わかるのはただ一つ。
共に過ごせる時間が限られたものであるならば…
――――…なら
一言でも多くの二人の会話を。
どんなにささいでも小さな記憶(おもいで)を。
二人で 綴ろう。
…最後のその瞬間(とき)まで。
10月8日 PM11:09
斗真と向かえる最後の朝は、運悪く月曜という平日の朝だったためろくに言葉を交わすこともなく、学校から帰ってきてお風呂入ったり、夕飯を食べたりして気づいたころにはもうこんな時間。
あの日以来、すっかり口数の減ってしまった斗真を外に誘う。
そういって私服を手にしようとした腕を、斗真が後ろからそっと掴んだ。
そういって歩き出す斗真に並んで、あたしもゆっくりと歩を進めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。