やっぱり、いつもの達也さんじゃない。
どこか上の空な感じだった。
私はお茶をテーブルの上に置いて、ソファに座った。
なかなか話そうとしない達也さん。
私から聞いたほうがいいのかな?
「何か…あったんですか?」
すると達也さんはこちらを見て寂しそうな、悔しそうな顔をした。
どうして…
「どうしてそんな顔をするの…」
私は達也さんの頬に手を当てた。
「俺は人殺しと同じなのかな…。」
「どうゆう…」
達也さんは私の手を包み込んで手を握った。
「今日、俺は現場にいる人を救出するために中に入った。」
「それで、実際、中で『助けて』って声が聞こえたんだ。」
「俺は、清水さんと一緒にその人が見えるところまで行った。」
「女の人と、その人の子供だった。」
「女の人は子供を抱えながら助けを求めていた。」
「でも…。」
「手を差し伸べようとした瞬間…」
「二階の屋根が目の前に崩れ堕ちて来た。」
「その時、女の人の叫び声が聞こえた。」
「でも、その叫び声は…」
「消えて行った…」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!