私はまだあるのか、なんて思いながら話を聞くことにした。
どうせ、何か言ったところで彼は話を続けるつもりだったろうしね。
ルアリーの手からいきなり現れた如何にも異空間へと続きそうな丸い空間に私は吸い込まれた。
-吸い込まれた空間の先は水晶、瑠璃の原石が至る所に見られた。自分の立っているところも、それとなくそれらの宝石に似たような色をしていた。
恐らく、この空間はすべて宝石で出来ているのだろう。
そんな宝石の回廊の奥、薄い霧で若干見えにくいのだが、そこには巨大な鏡があった。
いつの間にかルアリーもこちらへ来ていたらしい。
私はルアリーの言葉に頷くと1歩、2歩と足を動かした。
宝石の回廊はとても幻想的で、神秘的だった。
昔絵本で見た景色のよう。
たしか、あの本の名前は-
っと、本の名前を思い出そうとしている時にどうやら鏡の前に着いたようだ。
ルアリーはこの煌びやかで美しい宝石の回廊について話し始めた。が、初っ端から既にツッコミを入れたくなるようなことを話している。
-まさか。
私はひとつ、心当たりがあった。
それは私がまだ3歳かそこら辺だった時にすごく気に入っていた人形。
それは今よくよく思い返すと、彼-ルアリーの姿そっくりではないか。
ある日を境に忽然と消えてしまった、その時を私は何故か鮮明に覚えていた。
-そういえば。
あの時私、人形になんて名前つけたっけ。
たしか、たしか-
そんなことどこで知ったのやら、なんて言葉を飲み込み私は首を傾げた。
彼ならきっとこの仕草だけで私の聞きたいことがわかると思ったからだ。
私はそれがどれほど恐ろしい夢か、容易に察せた。
私自身そんな夢をまだ見たことは無かったのだが、この間夏夢がそんなことを言っていたのを思い出した。
「もうほんと怖かったんだよ〜!」と朝から大声でわぁわぁ言い出すものだから、あれには驚いた。
いやどこが簡単なの、と言わんばかりに耳を掴もうとした。
が、流石に3回も同じ手は喰らわないらしい。
ルアリーは私の手元から軽い身のこなしで避けるとひとつ咳払いをした。
上から目線なルアリーをぎろりと睨みつけ、まぁいいと頷いた。
人から信じているなんて言われても普段は「そんなことないでしょ」と突き放していたけれど-何故かルアリーにはそんなことをする気にはならない。いや、なれないのだ。
理由はわからないが、不思議と私は彼に私の癪に障るような事をしても許してしまえるようだ。
これが彼の魔法によるものなのかはわからないのだが…。
いきなり過ぎだ、と焦りを隠せない私にルアリーは平然とこんなことを言った。
もうこうなったらヤケだ、と私はルアリーにそう言った。
ルアリーは数秒で1人目を連れてきた。
私はそれには驚くことは無かったのだが-取り出された悪夢の姿には驚きを隠せなかった。
ルアリーの手にあるどす黒いモヤみたいなのが悪夢の姿だった。
終焉、という言葉が相応しいであろう見た目のそれによくわからない言葉でルアリーが語りかけるとどす黒いモヤの黒さがだんだん薄まっていくのが見えた。
やがてモヤは真っ白になった。『空っぽ』ということを示しているようだ。
それにルアリーが新しい夢を吹き込むと-モヤはピンク色に変色した。
『ボクの優夢』ってなんだ。
私はいつからルアリーの所有物に…なんてことを心の中でブツブツ呟きながらついさっきルアリーが作ったピンク色の夢を手に取った。
夢に重さは無いらしく、手に取ったフワフワとした感触はあるものの重さを感じないため不思議な感覚だった。
すやすやと眠っている人間と、どす黒いモヤを持ったルアリーが戻ってきたため私はそう聞くとルアリーは平然と「うん!そうだよ」と言った。
コイツ、馬鹿なのか天才なのか……いや、馬鹿と天才は紙一重とも言うから、その紙一重、の向こう側の可能性も充分ありえるのか。なんて思いながら夢を送り込む。
夢を無事に送り込まれたのか、眠っていた名前も知らない、ただ同じ町に住んでいる人の寝顔は柔らかな笑顔になった。
私は気になったことを口にしてみた。
わからないの?と言いたげな顔でルアリーは答えた。
-本当に、あの時気に入っていたのはルアリーだったんだ…。
そして、ようやく絵本の名前を思い出す。
『夢見町』だけ違う話で描かれているというそれは。
私が童話の中で一番好きだったそれは。
軽くひと笑いしながらルアリーはそんなことを言っている。
私はルアリーの話にツッコミを入れる気力が残されていなかったため、ただ呆然とその場でルアリーのお喋りを聞くしかなかった。
夜更かしは乙女の敵だーなどとほざくルアリーを殴りたくなった。が、拳を作った左手を下げた。
私はこうなる運命だったのだろうか。
よく喋る口達者な元人間、賢者のウサギの魔導人形に出会いパートナーとして生きる。そんな人生なのだろうか。
そうならば、今すぐにでも消えてしまいたい。
でも-不思議と夢を送り込むのは楽しかった、かな…。
なんて思いながら現実世界へと戻された。
ベッドに腰掛けた状態で眠ってしまった優夢に優しくルアリーはそう言うと、人形の姿から人間の姿へと変えた。
優夢に布団をかぶせた後、ルアリーも久々に魔法を使ったからかすぐに眠ってしまった。
月明かりが彼の美しい金髪を照らしていた。
二人とも、疲れきって熟睡していた。
朝起きられるかなんてどうでもいいと思えるくらいだった。
そのせいで今朝は遅刻するハメになるのだが-それはまた別のお話…。
to be continued
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!