第4話

進展
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2017/11/03 09:44
昨日、いや昨晩は大変だった-なんて眠い目を擦りながら笈原優夢(おいはら ゆゆ)は『死ね』『ブス』など、暴言を書かれ滅茶苦茶にされた机の上にいつものように荷物を置いた。
その時、ふとスマートフォンの通知が鳴った。
優夢
優夢
……?
通知の正体はある警報を知らせるメールだった。
優夢
優夢
悪夢、注意報…………?
しかし、その通知が届いたのは私のスマートフォンだけのようで、いじめっ子達や他の子達のスマートフォンからはLI〇Eやゲームアプリの通知といったものが来ているだけだった。
あなた

……あの

-この子は。
私はたまたま教室のドアの近くにいた子と目が合った。
するとその子は私の顔を見るや否や私に向かって手招きをした。
-考えられないと思った。
私なんかにそんなことをしたら、周りに目をつけられると、そう言いかけたが何故かそれを言わずに私はその子のところまで歩み寄った。
あなた

笈原さん、だよね……?

優夢
優夢
そ、そう、だけど………私、に何か用でもある、の…?
学校での私は-本当に弱いと思う。
誰に対してもおどおどした態度を取り、心に募った想いをはっきりと伝えられない。言葉を出そうとする度に、何かが喉につっかえて息までできなくなってしまう。
しかし、そんなおどおどした私に苛立ちを見せることなくその子は頷き話を続けた。
あなた

この警報…?みたいなのって、笈原さんにも来てたりするのかなって思って…

優夢
優夢
!それは…
その子が見せてくれたスマートフォンの画面にはたしかに『悪夢注意報』の文字があった。
そういえばこの子は、昨晩私が夢をすり替えた子だ。
あなた

………やっぱり、知ってるんだね。……HRまで時間もあるし、少し話さない?

優夢
優夢
…わかっ、た。私がわかることは、なるべく言う…
そう言うと、私達は普段誰も来ない旧校舎へと続く渡り廊下へ移動した。
中等科2年の教室がある校舎からはまだ近い。
ここでなら、15分は話せるだろう。
もし時間を過ぎたとしても口実を作ればいい。
優夢
優夢
…私、は誰にとは言えないけれど…この『夢見町』には悪夢が蔓延してるって、言われた……。
それで………昨晩は2人、の夢、と夢を…すり替えた……
ルアリーのことを言ってしまえば、いくら他クラスの子でも流石にアウトだろう。
そう思った私はルアリーのことを言うことなく、かつ円滑に話を進められるようにまずは『自分は夢をすり替えることが出来る』ということから話し始めた。
あなた

……成程。
もしかして、昨日の夜、私の夢をすり替えてくれたりした…?

優夢
優夢
…………した、と言ったら…?
あなた

…素直に礼を言う。それに限る…と、私は思うよ

どうやらこの子は私に敵意は持っていないらしい。
まぁ当然だろう。
何せこの子とこの現実世界で出会ったのはこれが初めてなのだから。
あの異空間-夢工房で見た時この子は眠っていたのだから、会ったとは言えないだろう。
優夢
優夢
…そう。
君、は………私に敵意、持ってないん、だね……
あなた

まぁね…。笈原さんが虐められてるってことは何回か耳にしたことはあるけど。
やっぱり助ける気にはなれないよ。何せ相手が相手だからね…。
…そもそも、なんで虐められるようになったの?

-どうして、だったかな。
くすっ、と笑ってみせる。
正直、自分自身なぜ虐められ始めたのか-虐められて数ヶ月経つ今でも未だにわかっていないのが現状だ。
私には、何か悪いことをした覚えがないからだ。
だから、いきなり始まった時は本当に驚いた。
皆が皆、1日で人柄をころりと変えたあの時。
私は反応に困った。心の底から困ることなんてあるんだ、なんて感心した気持ちもあったのだが。
優夢
優夢
…ごめんね、それは私にもわからないの…
私が申し訳なさそうに言うと、全然大丈夫だよ、と少し優しい笑顔になって許してくれた。
キーンコーンカーンコーン………
あなた

や、やばっ!
HR始まっちゃう!

優夢
優夢
あ、本当だ……………………えっ、と
あなた

私の名前はあなた。
これからどこかで会った時はよろしくね、笈原さん…ううん、優夢ちゃん!

そう言うと、その子-あなたはぱたぱたと私の居る1~5組側の廊下ではなく、6~10組のある方の廊下へとかけていった。
あぁ、道理で普段見ない子だ、とその時思った。
私はあなたのように急ぐこともなくのんびりと廊下を歩いていた。
優夢
優夢
………遅れてすいません、少し貧血を起こして…さっきまでいた中庭で暫く動けない状況にあったんです…
不思議とあなたと話した後の私は言葉がいつものようにつっかえることなく、ルアリーと会話するようにすらすらと言葉が流れていった。
クラスの皆の視線を浴びながら、私は先生の言葉を聞くことなく自分の席についた。
いじめっ子A
…何、今日のアイツ
いじめっ子B
堂々と遅れて堂々と理由を話すとか……らしくないわ〜
夏夢
夏夢
……………ね、ねぇ…そんなこと言わない方が-
いじめっ子B
あぁ?
何あんな奴の味方になろうとしてんの?
賢木(さかき)さんはうちらの味方でしょ?
夏夢
夏夢
…………私、は…どちらとも言えない…。
だって……あなた達のしている事は…人間としてどうかしている行動だと私は思うから…。
私は虐められてる側が悪いなんてこれっぽっちも思ってない…けれど、責められるのが怖いから……虐められるのが、痛いのが怖いから…だから今まで何も言えなかった…!
優夢
優夢
…………………!
私はその時やっとクラスメイトの、親友のことを再認識した。
うつ病と診断されてから世界が灰色に見えていた。
それがたった今-少しずつではあるが、明るみを、鮮やかさを、本来あるべき世界の姿を私の目に写してくれた。
優夢
優夢
な、つ…………め………?
もう、そんなこと言わなくていいんだよ…?
私、が…私が耐えたらいいんだよ……?だから-
夏夢
夏夢
優夢だけが耐えたらいいなんて、そんなわけない!
私は怖かったの…本当に臆病で、どうしようもなかったの…
-なんだろう、この息の詰まる感覚は。
いつものおどおどした、怖がりで尻尾を巻いた私の感じる息の詰まりではない、不思議な息の詰まり方。
だが-それは不快感を感じさせなかった。
いじめっ子A
あのさぁ………調子乗らないでくれる?
怒り、苛立ちを露わにしたいじめっ子リーダーが私と、夏夢を睨みつける。
優夢
優夢
夏夢………夏夢まで辛い思いする必要は無いんだよ…
夏夢
夏夢
…優夢。私、必ず辛い思いをするとは言っていないよ?
-どういうこと?
私は目で訴えた。
夏夢はそれを感じ取ると、話を続けた。
夏夢
夏夢
私は-誰かを虐めるほど弱くないから
きっぱりと、そして澄んだ声で夏夢は堂々と言い張った。
この言葉は-恐らくクラスの殆どの人の心にぐっさりと刺さったことだろう。
特に-いじめっ子達には。
夏夢
夏夢
誰かを虐めてそれらの上に立って周りを見物する人程弱い者はいないと私は思うの。
だって-築き上げた『いじめられっ子』という屍の山はいつ動き出して、いつ崩れ出すかわからないでしょう?
それに…人を虐めることの何が楽しいか私には理解できないの。
人にしたことは必ず自分に返ってくる。
それも………大抵自分が忘れた頃に、ね。
私はそんな弱い人にはなりたくもないし、なる気なんて一切ない。
だって、私には大切な幼馴染がいるから。
私はそんな大切な幼馴染を助けられなかった自分に怒りを、嫌悪感さえも覚えていたわ。
でも、その自己嫌悪も今日で終わり。
私はもう迷わない。弱い者なんかになり下がらないって決めた。
だから-偽善者のフリなんてやめるの
優夢
優夢
………………夏夢
夏夢
夏夢
…ん?
優夢
優夢
……………夏夢のこと…私、忘れてた…ごめん………本当、ごめん…でも、今のは………何故か嬉しかったの…可笑しいよね…私なんかが嬉しいなんて思っちゃ…
そう言って、少しずつ涙を流しながら笑顔になる優夢を前に-夏夢は「馬鹿!」と一喝した。
それには流石に優夢も、周りにいた人も驚いた。
夏夢
夏夢
優夢だってひとりの人間でしょ!?
嬉しいとか、そういうことを感じることは何一つ可笑しくないよ!
嬉しい、悲しい、寂しい、好き、嫌い-色々な感情を持つことが出来て、それを言葉で伝えられる、表せられる人間なんだから!
優夢は人間なんだから!
だから、だからそんな悲しい事言わないで……
数学担当の教師も、これには何も言わなかった。
言えなかったという方が正しそうな表情をしていたが…。
優夢
優夢
かな、しい…………?
…そう言えば、なんで私、泣いてる………?
自分が涙を流していたことにやっと気づいた優夢は手で涙を拭った。
ただ-なぜ自分が今泣いていたのかを問うその声は、抑揚、感情のない機械のような声だった。
夏夢
夏夢
………そ、悲しい。
…私は優夢の思いがわからない。わかってあげられない。けれど、そんな私でもできることはいくらだってある。
例えば-優夢の辛い思いを、半分でも、半分以上でも………それ以下でも、一緒に背負っていったりとか、ね
優夢
優夢
…………そ、か
優夢は気付いた。
何故自分は虐められ始めたのかを。今までずっと熟考しても分からなかったそれを。
優夢はやっと見つけたのだ。
-私は、感情の起伏が薄すぎるから。
だから、無関心だと思われて-今思えばなんとしょうもない。
私は軽く首を横に振ると、もう下を向かない、と固く決意してから言った。
優夢
優夢
…私は今までなんで自分が虐められているのか…ずっと、ずっとずっとわからなかった。
でも、自分に何かしらの原因があって虐めてきてる-それだけは確信していた。
……でもね、たった今その原因がわかったの。
だから言わせてもらうね。

-お前らなんでそんなしょうもない理由で私を虐めるの?
そりゃ夏夢の言う通りだわ。
私は私、ひとりの人間として生きているだけ。
感情の起伏があまりにも薄いのは-生い立ちのせい。
-あんた達に私の何がわかる!?
あんた達の愚痴も、嫌味も、全部全部聞こえてた私の何がわかる!?
他のみんなもそう!
見て見ぬフリをしていたの…ずっと気づいてた。
最近なんて、もはや隠す気にもならなかったでしょ。
私はすべて知った上でずっと黙ってた。
それは決して誰かが助けてくれるからとかいう、巫山戯た理由なんかじゃない。
寧ろ弱すぎるなぁと心の中で馬鹿にしていた程だよ…?
優夢の本音を前に、教室は静まり返った。
馬鹿にされていたなんて、と思う余地もなかったほどに。
怒りを覚える余裕も、自分がどう動けばいいのかわからないということもあってだろう-誰一人として口を開くことは無かった。
-たった一人を除いて。
夏夢
夏夢
………なんでみんな黙ってんの
しかし-夏夢のその一言にも周りは反応しない。
夏夢
夏夢
そうやって黙ったまま、時間が過ぎて、物事が進められるのを待つことしか出来ないの!?
優夢
優夢
夏夢……
夏夢
夏夢
ねぇ、優夢に何か言うことあるんじゃない?
そうやって黙って自分の罪から逃げるつもりなの?
いじめっ子A
…………………
夏夢に問い詰められたいじめっ子達のリーダーは暫く黙ったままだった。
が、遂に口を開いた。
いじめっ子A
あたしは…………あたしは悪くないもん…優夢が……優夢が悪いんだもん
優夢
優夢
………え?
夏夢
夏夢
は?何言って-
優夢
優夢
いいよ夏夢。
私は話を聞きたい。
私の何がいけなかったのか-何があなたの癪に障ったのかを聞きたいの
優夢は優しい声でそう言うと、リーダーはどこか怯えたような目で優夢を見た。
いじめっ子A
…………っ
今まで自分達があの手この手で虐めてきた子。
それが今、目の前に優しい表情で-だが本当の強さを持って立っている。
優夢
優夢
大丈夫。
思っていた事を包み隠さず言えばいいだけだよ
-やめてくれ、と心の内が叫ぶ。
夏夢はふたりの様子を黙って見ていた。
自分が口出しする必要は無いと、そう悟って。
いじめっ子A
…最初は-普通に嫌いだったから、虐めたんだ。
何もしていないのに頭が良くて、スポーツもそれなりに出来て-それなのに涼しい顔をしているのがとても嫌だった。
次第にひどくなってって……その、ごめん、なさい…
優夢
優夢
ううん大丈夫…。
そうやって謝ってくれるだけでも嬉しいから
キーンコーンカーンコーン………
そんなことをしている内に、1限終了のチャイムが鳴った。
しかし、その場にいた数学担当の教師は何も言わなかった。
いじめっ子A
…あのさ!
優夢
優夢
…?
いじめっ子A
………昼休み、聞きたいことがあるんだけどいい?
優夢
優夢
…別にいいよ
多分-今みたいな返事が嫌だったのだろう。
しかしそれは簡単には治らない癖。
私も、周りも、努力すべきことは色々ある。
私は昼休み何を聞かれるのか考えながらその後普通に授業を受けた。
優夢
優夢
………んで話って?
昼休みになり-私はリーダーの子に今朝あなたと話したあの廊下にいた。
いじめっ子A
…あなたからLI〇Eで聞いたんだけどさ、優夢って夢をすり替えることが出来るんだよな?
優夢
優夢
まぁ一応…
いじめっ子A
ならお願い!あたしの悪夢をどうにかして!
もう嫌なんだ……寝る度に自分の分身に虐殺される夢なんてもう見たくない…!
優夢
優夢
…わかっ、た。
………えーと
柚音
あ………気軽に柚音って呼んで
優夢
優夢
ん、了解………今夜でいいよね?夢をすり替えるの
柚音
うん、というかあたしは今からでもいいんだけどね!
本当に怖いんだよ……あの夢
まぁ優夢にも事情はあるだろうし、夜、お願いね!
-ルアリーは優夢の心の異常にいち早く気づいていた。
あの子はうつ病だから壊れたんじゃない。
元から壊れていたんだと。
悲しみ、喜びだけ感じにくいなんて-人間として欠陥に値する。
ルアリー
ルアリー
…優夢、ボクは君を救いたい…………
to be continued

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