それを確認するとルアリーは頷き、話し始めた。
ボクには幼馴染が居て、その子はとても賢かった。こんなボクよりも、ずっとね。賢くて可愛くて面白い-そんなあの子のことを、ボクはいつの間にか好きになっていた。
ある日、その子は【生命魔法理論】という理論を確立させたんだ。驚くだろう?人類初の魔法が生命に関するものなんだ。普通、そういった何かに特化したものの理論を作るにはそれの基礎が必要なのに、あの子は基礎を使わずに感覚とそれまでの知識だけで『完璧に』確立させたんだから。
やはり名前では思い出せなかったか。
記憶に関する魔法理論の確立に成功したのは彼女の死後約30年後のことなのだ。無理もない。
それで-とルアリーは話を続ける。
声を落とし、ルアリーは話し続ける。
そう-あれはただの悪い夢。そう、そうであって欲しかった。現実だと、思わせて欲しくなかった。
「あたしよりも早く死なないでね」なんてジョークを笑いながら口にしていた君は、本来ならまだまだ余裕で今も生きていた筈の君は、ボクなんかよりもずっとずっと先に逝ってしまった。
ユーリアは新しい魔法理論の確立の為に行った実験で命を落とした。
畏れながらも-だが、気になったことを口にせずにはいられない優夢は聞いた。ルアリーはほんと、変わってないなんて言いかけたが脳内ですぐにそれを訂正し、返答をした。
その時優夢の脳内にこんなことが聞こえた。
-「あたしはあなたで、あなたはあたし。目の前の彼は何と呼べば驚くでしょう?」
そんなの、わかるわけが無い。
大体呼び名で驚くことといえば、かつて大切な人に呼ばれていて、それで自分を呼んだことがなかった人がそう呼んだ時。
-やはり、よくわからない。
そもそも、声の主がわからなければ、それの問う質問の意図も汲めない。だから、優夢は聞き返した。
「あなたは誰?」と。
しかし、返事はなかった。答えたくない、という意志がよく伝わった。
ならいい、とひとりで熟考することにした。
「感覚で【思い出して】よ」と声が聞こえると、それ以降声は聞こえなくなった。
-思い出す?何を?
優夢には一切の記憶が無い。
過去のことは特に-これといっていいことも無ければ悪いこともなかった。強いて言うならば、両親の死とそれによる独りになったという悲しみぐらいだろうか。まさかあの声の主は前世のことを思い出せとでも言っているわけが-
思考はそこで止まり、気づいた時にはそう呼んでいた。
人形のクセに、妙に人間味を帯びた驚きの表情をするルアリーを前に、自分でもどうして彼をそう呼んだのか考えたが、よくわからなかった。
ぽたっ、と涙が1粒、2粒と床に落ちる。
優夢は何故ルアリーが泣いているのか全くわからなかった。いつもなら「泣くところなんてなかったじゃない」と少し辛棘な言葉をかけるのだが、この時は何故かそれが出来なかった。
またしても、無意識のうちにルアと呼んでしまったことに優夢は気づかない。それが-ルアリーを余計泣かすということも知らない、無知な彼女は慰めることしか出来なかった。
優夢に抱き抱えられたルアリーは涙を流しながらそう言った。優夢はそれが何故か自分に向けて言われているように思えて-心が痛くなった。
その日は、珍しく日を跨ぐ前に二人揃って眠りについた。
to be continued
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!