第10話

前世の提案
89
2017/11/26 07:51
ユーリア
ユーリア
優夢、は…ちゃんと学校に行くんだね
通学路を白い息を吐きながら歩いていると、ユーリアがそう聞いてきた。まさかとは思うがこの少女、いや賢者は学校に行ったことがないのだろうか。
ユーリア
ユーリア
私-ううん、もう取り繕う必要は無いか。
あたしは学校なんてめんどくさかったから行かなかったの。もっとも、今思えばあれぐらい行くけばよかったと思ってる
あれ?ユーリアって案外ぐうたらな人?
ユーリア
ユーリア
失礼な。あたしは効率良く生きたかっただけ。
それなのに、そんなあたしの願望を遮るようにしてあたしに病気が見つかったんだもの、そんなの魔法で無理矢理にでも寿命を伸ばして生きたいように生きる道を選ぶしかないじゃん?
今朝の夢にしても、今にしても彼女はどこか滅茶苦茶な理論、言い分を展開している。本当に彼女は、私は生命魔法なんて立派な魔法の理論を確立させたのだろうか?それすらも疑わしくなってくる。
ユーリア
ユーリア
ちゃーんと確立させたよ。
だから今、医療は発達した…。
何故なら延命措置を講ずる事が出来るのは、人々にどうにかして生き永らえたいって概念が定着したからね。
それまでは、あたしの時代は誰も死ぬことを拒まなかった。世の摂理、理だと誰もが受け入れ、誰も死を恐れなかった。
けれども、あたしは違った。
まだ大好きなルアと離れたくない。
死んだ後どうなるか分からない。
-あたしはそれがすごく怖くて、なんとか長く生きられないかって思った。
凄いでしょ?学校も行かずにしたいことだけをしていた自己中心的で恐ろしいぐらいに我儘なあたしはね、たった1年半でそれまで世界になかった魔法を編み出したんだよ
たった1年半でそれまで世界になかった概念を病床の少女が、自分が生き永らえたいが為に編み出した。たしかにそれは驚くべき事実だろう-と、『心の中』でユーリア-もうひとりの私と会話している間に学校に着いていた。今日はやけに到着が早いな、と思ったが無理もないだろう。何せ-彼女と私は家を出てからずっと喋っていたようなものだから。
ユーリア
ユーリア
………授業ってこんなに退屈なんだねぇ
授業中、ずっとユーリアはそんなことを言っていた。
じゃあ、あなたはすべて解けるの?と聞くと勿論、と自信満々に言うから一応ユーリアにすべて答えを聞きながら問題を解いたりしたのだが-なんとすべて正解していた。見た目はほとんど変わらないのに、中身のスペックはこうも変わるのかと思ったりもしたが-不思議と悔しくはなかった。
優夢
優夢
…………
虐められることは無くなったが未だにあまり良い扱いをされていない私はクラスの中じゃ【最下層】に当たる所謂陰キャという所なのだろう。
ユーリア
ユーリア
…優夢、いつもひとりなの?
あぁ、それが私の当たり前だけど?

馬鹿にされるのかと思い、ついそう強く言ってしまった。自分の前世に馬鹿にされるのを恐れるなんて、それこそ馬鹿だとも思ったがユーリアは馬鹿にすることなく、私を驚かせた。
ユーリア
ユーリア
どうして?
君は魔法使いじゃないか。
その魔法を駆使して注目の的になっちゃいなよ
………そういう訳じゃない。そういう訳には行かない。
今の人間は魔法なんて絵空事だと思っているから。
そんなこと言ってしまえば、それこそ馬鹿にされ-
ユーリア
ユーリア
……何それ。本当は目立った後嫉妬されるのが怖いんじゃない?だって優夢、あたしそっくりだからさー?頭脳もそれなりにあるんでしょ?それこそ、周りを見下せるぐらいには、ねぇ?
優夢
優夢
…………………さい
ユーリア
ユーリア
んー?聞こえないよ?
優夢
優夢
五月蝿い!
【賢者】だったあんたなんかに何がわかるの!?
気づいた頃には遅かった。
昼休み、1人で居た奴がいきなり怒鳴ったのだ、無理もない。その時教室にいた生徒の視線はすべて優夢に注がれた。
優夢はもしかして今、人生でかなり『やばい』ミスをしたのでは、と焦った。そう、忘れてはならない-ユーリアはあくまで『わたし』。そして、魂だけなのだ。他の人はそれを知らない。ましてや、ユーリアを認識することすら出来ない。
優夢
優夢
……………
ユーリア
ユーリア
…風よ
その瞬間、ぶわっと風が吹く。
ユーリア
ユーリア
我、神風を呼び操りし者。
出でよ-【風神】『ウェンディア・ドラウェス』!
体が勝手に動き気づいた頃には-影で私のことを嘲笑ったクラスメイトが吹き飛ばされていた。
-ユーリア。どういうつもり?
ユーリア
ユーリア
どういうつもりも何も、あたしは嘲笑われるのが大嫌いなの。逆に、優夢はよく平然としていられるよね。
……きーめた。
明日からは学校の時はあたしが『優夢』を演じてあげるよ。
だーいじょうぶ!今のあんたよりもずっと活躍してみせるから!
家の時は優夢が優夢で構わないよ。
あたしは今のあたしがこんなんだとは思ってなかったからね!…あ、拒否権はないからね?
-嘘だろ……。
笈原優夢14歳、前世の自分に「今のあたしがこんなんだとは思ってなかったからね!」と言われた挙句学校生活内ではどうやら精神を入れ替えられる上に体の自由-主導権を奪わられるようです。
あぁ………流石に卒業式ぐらいは-
ユーリア
ユーリア
…卒業式、か。
卒業ぐらいは優夢で終わらせたいね。
高校のはじめも、優夢であたしが様子見ね
あ、はい。どうやら前世の自分に私は監視下に置かれたようです。一言で言うとオワタ。マジオワタ。
その内サン●リというカップリングが人気で今年遂に公式日本語版が出たUnde⚪︎ta⚪︎eの主人公みたいになりそうだ…。いや、主人公ちゃんは好きだけどね、うん。
ユーリア
ユーリア
さぁて。残りの授業、頑張ってね!
授業の予鈴が鳴ると同時にユーリアはそう言った。
優夢は明日からはこの学校で優夢として居られなくなる。それがどれだけ不安なことか。
その不安が大きすぎたのか、昼からの授業は全く頭に入ってこなかった。
to be continued

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