時代という概念が存在しえなかった古の時-人の中に、何人かとんでもない悪夢を見る人が居たらしい。
それもその筈、当時世界は至る所で戦争が行われ、尊ぶべき命という命を次々と滅ぼしたのだ。
だがそんな中で、決して諦めない、挫けない、本当に強く優しい心を持った所謂『聖女』のような少女が居たらしい。
少女の名はフェリアといった。
フェリアには、生まれつき人間には持たない能力があった。それは夢を操ること。
人々から悪夢を退けたのは、当時わずか13歳程のフェリアだったという。
更に彼女は教養深く、知恵とそれを引き出せるだけの知識があった。そんな彼女は人々を戦火から逃がす為の取引などの為に、生涯でなんとおよそ17ヶ国の複雑な言語を思いのままに使ったという。
まともな言葉として使われていない、使えない出鱈目な言語まで現地の人に通じるように、しかも流暢に話したというのだから、彼女の語学力は天性のものなのだろう。
彼女と彼女を慕う人々はある日、奇襲に遭う。
彼女は自分をしたってくれた人々を逃がし、金品を狙う盗賊団や異国の兵士に立ち向かう覚悟を決めた。
だが、彼女は立ち向かうと言っても武器も何も無い。
あるとしたらそう、超能力と言われるチカラ。
大丈夫。わたしの能力は-
『夢を操ること』だから。
直接脳に悪夢を送り込むぐらいなら容易い。
更に、それを利用して相手のトラウマを引き起こすことだってその気になればいくらでもしてやれる。
武器が無くたって、手段は『無限』だ。
そうして彼女は何度も夢を呼び起こしては逃げ延びた。
そんなある日、彼女は遂に殺される。
世界大戦が終わり、世界に平和が訪れた頃だった。
戦時中の行いがどうやら噂されてしまったらしい。
しかも、それが彼女が一番望まない、恐れていた形で。そのせいで、彼女は投獄された。しかも死刑。最悪。
彼女は考えた。
どうにかしてここから逃げ出せないか。
だがそれは無理そうだ。
窓から外を見てみた時にわかった。
鉄条網でこの監獄は覆われているらしい。
しかもほかの囚人達の噂曰く触れたら死ぬレベルの電流が常時流されているらしい。
平和になってから、世界は急に発達したんだと思わせられた。
そして考えがまとまらずに死ぬ日がやってきた。
大鎌を持つ青年は、涙目で死刑囚であり生き別れた実の妹を見つめる。
こう見ると髪色も同じで、目の色も同じ。
……本当に兄妹なんだな、と思い軽く笑う。
驚いた表彰で、フェリアは執行人の青年を見る。
そう言いながら青年はフェリアの頭をそっと撫でる。
濡れた声で青年は言う。
フェリアは頭を撫でられ少し混乱していたが、言われてみれば髪色も目の色も同じだ。
戦時中世界中を巡ってきたが、自分と全く同じ髪色や目の色をした人間は見たことがなかった。
青年がもし嘘をついていないとしたら-ううん、よくよく考えてみればこんな死刑囚となった自分に嘘をつく必要なんてないじゃないか。
そう思ったフェリアは顔を上げた。
青年の顔をまじまじと見る。
そして-
当時15歳、死ぬにはまだ早すぎる。
自分は24歳、9歳も下なんだと思う。
妹を助けたい。
その為には仕事を放棄しなければならない。
総長に気付かれてしまったらどうなるか…それなりの覚悟は必要だろう。なんて思っていると、フェリアは決意を瞳にして言った。
笑顔で、自分を殺してもいいと言った。
そして、青年は1度は離した大鎌をもう1度持った。
天使のような笑顔で、フェリアはそう言うと処刑台へ続く扉の前へ走って向かった。
そして、ガチャガチャと扉の鍵を鳴らした。
そう言えば、処刑台への扉はいつも鍵がかけられていたな。自分がかけているのにな、なんて思いながら慣れた手つきで鍵を開け、いつもより激しくその扉を開けた。
今まで数多くの対罪人の首を落とした大鎌は、今までで1番の輝きを放っていた。
そんな鎌を妹の首にかけた。
それだけで精一杯だったのだが、そこから力を入れなければならない。
その言葉に驚き、つい鎌を振り下ろしていた。
気づいていた頃には-つい先程まで話していた大好きな妹の頭が足元に転がって、死刑執行を見たがる野次馬の歓声が響いていた。心が、痛かった。
ルアリーを優しく抱き抱え、感極まったのか少し震えた声で優夢は言った。
いきなり抱き抱えられて驚いてしまい、人間化してしまった。
どこか残念そうに頷いた優夢は1分半後キッチンへ向かった。だがその後も-
少し苛ついた口調で優夢が聞く。
たしかにおかしい。
時間を過ぎて戻るなんてことはこれまで一度もなかった。
とするとこれはもしや………
怖ず怖ずとそう言うルアリーに優夢は怒りを露わにした笑顔を向けた。
あ、これダメなやつだ。
そう思った頃には優夢の踵が自分の首に落とされ俺は気絶した。
to be continued
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。