第12話

『夢の操り手』
93
2017/12/09 17:26
ルアリー
ルアリー
ボクもユーリアも生まれる前、気の遠くなるくらい昔のことでね………
時代という概念が存在しえなかった古の時-人の中に、何人かとんでもない悪夢を見る人が居たらしい。
それもその筈、当時世界は至る所で戦争が行われ、尊ぶべき命という命を次々と滅ぼしたのだ。
だがそんな中で、決して諦めない、挫けない、本当に強く優しい心を持った所謂『聖女』のような少女が居たらしい。
フェリア
フェリア
……我が聖なる力よ、悪夢を払い幸夢を運びたまえ!
少女の名はフェリアといった。
フェリアには、生まれつき人間には持たない能力があった。それは夢を操ること。
人々から悪夢を退けたのは、当時わずか13歳程のフェリアだったという。
更に彼女は教養深く、知恵とそれを引き出せるだけの知識があった。そんな彼女は人々を戦火から逃がす為の取引などの為に、生涯でなんとおよそ17ヶ国の複雑な言語を思いのままに使ったという。
まともな言葉として使われていない、使えない出鱈目な言語まで現地の人に通じるように、しかも流暢に話したというのだから、彼女の語学力は天性のものなのだろう。
フェリア
フェリア
早く逃げて!早く!
彼女と彼女を慕う人々はある日、奇襲に遭う。
彼女は自分をしたってくれた人々を逃がし、金品を狙う盗賊団や異国の兵士に立ち向かう覚悟を決めた。
だが、彼女は立ち向かうと言っても武器も何も無い。
あるとしたらそう、超能力と言われるチカラ。
大丈夫。わたしの能力は-

『夢を操ること』だから。

直接脳に悪夢を送り込むぐらいなら容易い。
更に、それを利用して相手のトラウマを引き起こすことだってその気になればいくらでもしてやれる。
武器が無くたって、手段は『無限』だ。
フェリア
フェリア
……夢よ、かの者の悪しき記憶を今呼び起こさん-
そうして彼女は何度も夢を呼び起こしては逃げ延びた。
そんなある日、彼女は遂に殺される。
フェリア
フェリア
…………っ
世界大戦が終わり、世界に平和が訪れた頃だった。
戦時中の行いがどうやら噂されてしまったらしい。
しかも、それが彼女が一番望まない、恐れていた形で。そのせいで、彼女は投獄された。しかも死刑。最悪。
彼女は考えた。
どうにかしてここから逃げ出せないか。
だがそれは無理そうだ。
窓から外を見てみた時にわかった。
鉄条網でこの監獄は覆われているらしい。
しかもほかの囚人達の噂曰く触れたら死ぬレベルの電流が常時流されているらしい。
平和になってから、世界は急に発達したんだと思わせられた。
そして考えがまとまらずに死ぬ日がやってきた。
執行人
……フェリア、今日でお前は終わるが…どうだった?
フェリア
フェリア
……え?
執行人
…ごめんな、兄ちゃん、お前を殺さなきゃならねぇんだ。
だからせめて最後に聞かせてくれ。
こんな世界に生まれて、どうだった?
大鎌を持つ青年は、涙目で死刑囚であり生き別れた実の妹を見つめる。
こう見ると髪色も同じで、目の色も同じ。
……本当に兄妹なんだな、と思い軽く笑う。
フェリア
フェリア
お兄ちゃん…?
わたしにお兄ちゃんなんて居たの……?
驚いた表彰で、フェリアは執行人の青年を見る。
執行人
………………ごめんな、ごめんな…
そう言いながら青年はフェリアの頭をそっと撫でる。
執行人
ずっとこうしてみたかった。
自分に妹がいることを知らされた時、それからずっと妹が恋しいと思った。逢いたかった。でも、こんな逢い方は望んでなかった…
濡れた声で青年は言う。
フェリアは頭を撫でられ少し混乱していたが、言われてみれば髪色も目の色も同じだ。
戦時中世界中を巡ってきたが、自分と全く同じ髪色や目の色をした人間は見たことがなかった。
青年がもし嘘をついていないとしたら-ううん、よくよく考えてみればこんな死刑囚となった自分に嘘をつく必要なんてないじゃないか。
そう思ったフェリアは顔を上げた。
青年の顔をまじまじと見る。
そして-
フェリア
フェリア
『お兄ちゃん』……フェリア…逢いたかったよ
当時15歳、死ぬにはまだ早すぎる。
自分は24歳、9歳も下なんだと思う。
妹を助けたい。
その為には仕事を放棄しなければならない。
総長に気付かれてしまったらどうなるか…それなりの覚悟は必要だろう。なんて思っていると、フェリアは決意を瞳にして言った。
フェリア
フェリア
フェリアのことを考えてくれるのは嬉しいよ、だけど…フェリア、お兄ちゃんには幸せになって欲しいの
笑顔で、自分を殺してもいいと言った。
執行人
……狡いよフェリア。
そう言われたら……俺殺さなきゃならないじゃん。
………………あーあ、本当なんでこんな職に就いたんだか
そして、青年は1度は離した大鎌をもう1度持った。
フェリア
フェリア
…処刑台だっけ?行こう?
多分、みんなフェリアが死ぬの見たがってる……お兄ちゃん、その時、泣いちゃダメ………フェリアも、泣きたくなるから
執行人
……ははっ、そう、だな………もう泣きそうなのにな
フェリア
フェリア
………お兄ちゃんに、最高の夢をあげる。
フェリアと幸せに暮らした、最高の幻。
……お兄ちゃん、他の誰かを愛せるようになって…天寿を全うしたら………フェリアの所に来て?教えて欲しい…
天使のような笑顔で、フェリアはそう言うと処刑台へ続く扉の前へ走って向かった。
そして、ガチャガチャと扉の鍵を鳴らした。
そう言えば、処刑台への扉はいつも鍵がかけられていたな。自分がかけているのにな、なんて思いながら慣れた手つきで鍵を開け、いつもより激しくその扉を開けた。
今まで数多くの対罪人の首を落とした大鎌は、今までで1番の輝きを放っていた。
そんな鎌を妹の首にかけた。
それだけで精一杯だったのだが、そこから力を入れなければならない。
フェリア
フェリア
……………ありがとう
執行人
………!
その言葉に驚き、つい鎌を振り下ろしていた。
気づいていた頃には-つい先程まで話していた大好きな妹の頭が足元に転がって、死刑執行を見たがる野次馬の歓声が響いていた。心が、痛かった。
ルアリー
ルアリー
こうしてフェリアは生涯を終えたのさ……可哀想と思うかもしれないけれど、彼女は最後にありがとうと言っているあたり満足していたのかもしれないよね
ユーリア
ユーリア
……………優夢はそんな人生を送った子の力を持つの?
ルアリー
ルアリー
そういうことになるね。
だから、優夢の人生も大変なことになるとボクは思うよ。
………ユーリア、君が悪いことをしないって言うなら君の魂を消さないと約束しよう。
その代わり、優夢のことを守ってあげて。
ボクはボクでするべきことがあるからね
ユーリア
ユーリア
…………………。
……いい、よ。
あたし2回も死にたくないし
ルアリー
ルアリー
じゃあ決まり。
優夢………いや、『夢の操り手』。
君はこれからもっともっと苦労するかもしれない。
もっと辛い思いをするかもしれない。
それでも、ボク達がいる。
君はひとりじゃないから。
………だから!
優夢
優夢
…ありがとうルアリー。
そう言ってくれて、そう思ってくれて。
私、嬉しい………こんなに嬉しいのは、初めて
ルアリーを優しく抱き抱え、感極まったのか少し震えた声で優夢は言った。
いきなり抱き抱えられて驚いてしまい、人間化してしまった。
ルアリー
ルアリー
…………
優夢
優夢
……………………………ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇ!!!!!???
ルアリー
ルアリー
あーうん、いつか話そうとは思ってたよ。
一応、数分間だけ人間になれるんだよ
優夢
優夢
それって何分くらい?
ルアリー
ルアリー
えぇと………たしか2分
優夢
優夢
…そう
どこか残念そうに頷いた優夢は1分半後キッチンへ向かった。だがその後も-
ルアリー
ルアリー
……………
優夢
優夢
…………ねぇ、ルアリーにとっての2分ってどれだけあるの?
少し苛ついた口調で優夢が聞く。
たしかにおかしい。
時間を過ぎて戻るなんてことはこれまで一度もなかった。
とするとこれはもしや………
ルアリー
ルアリー
戻らなくなったっぽい……
優夢
優夢
……………………………ゑ?
怖ず怖ずとそう言うルアリーに優夢は怒りを露わにした笑顔を向けた。
あ、これダメなやつだ。
そう思った頃には優夢の踵が自分の首に落とされ俺は気絶した。
to be continued

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