これはユーリアが魔法を使いかねない-そう優夢が思ったとき、
ユーリアのその言葉を聞いて「あぁ、あとで私がなんと言われるのだろうか…」と優夢の心が泣いた。
だが、折角人が居なくなった(正確にはユーリアが人を吹き飛ばし人1人居なくなっただけなのだが)ショッピングモールの通路を通らないわけには行かない。ルアリエと私は近くにいた店員からの突き刺さる視線をものともせず、ユーリアについて行った。
あぁ………こいつら魔法使う気満々だ。
おまけに犯罪まで余裕で起こそうとしてるよ…怖い、怖いよこの賢者達。いろんな意味でやばい。怖い。
笈原優夢14歳、15歳を迎える前に賢者の共犯者として犯罪者になりそうです…。
2人がそれぞれ瞬間移動して商品をかっさらう度にモール内では悲鳴があちらこちらから聞こえてくる。
もうこれは警察沙汰になること間違いなしだ。
なんて思っていたら私の方にそれらしき人物が向かって来ているではないか!
私は逃げた。
すると後ろから向かってきていた人物が走り出した。やはり警察だ。
幸いにも婦人警官は居ない。
私は足の速さなら負ける気は無いと真っ先にトイレへ向かった。
声は聞こえるが、足音は一向に近づいてこない。
私はトイレの個室を壁を乗り越えてすべて鍵を閉めるという、なんとも地味な嫌がらせと小細工を仕掛けた。
今、私は10個(右側、左側に5個ずつ)ある個室のうち、前から4番目、左側の列に居る。
足が見えては小細工の意味が無いので多少しんどいが壁に張り付くような形で隠れている。
ちなみに個室に何故かあったナイフを一応持っている。こじ開けられ尋問を受けられそうになったとしても、魔法を少し使ってナイフで切り裂けば、逃げることは容易だろう。
「あの女の子、いないとなるともうここに隠れていることが確定するな」
そう言うのは男の声だ。
警察だから入れるのは勿論承知の上でこの場所を選んだ。
男は順番にひとつずつ開けようとしているようだった。そこで、私は悪戯を仕掛けることにした。
-刃に風纏わせ薔薇よ棘を散らせ。
ナイフにそう命じると、僅かだがナイフは緑色のオーラを纏った。魔法付与に、成功した。
だが油断はできない。
電撃なんて私には人が死ぬほどのものは付与できない。
これがハッタリだと気づかれてはならない。
ならどうするか。
私は一応、誘電することはできる。
もう、個室のドアの鍵に誘電して、警察官を感電させるしかあるまい。
-手段は選べないのだから。
すると警察官は真っ先に私の今いる個室の向かいの個室に手をかけようとしていた。
背を向いている。
私は個室と天井の隙間から警察官の背中-少し左側を狙って、魔法を纏わせたナイフを投げた。
警察官は大きな音と共に倒れた。倒れる際、頭をドアにぶつけたのか私の目の前の壁-ドアが大きく揺れた。
それによって、大きな音が更に鳴った。
-殺してしまった。
なんと1発で心臓を指してしまったらしい。私のいる個室にまで血が流れ込んできた。
気持ち悪い、と私はひとつ奥の個室へ逃げた。
私は今、感謝している。
トイレの奥の上側には、小さな窓がある。
ここはたしか……5階だった筈だ。
5回なら十分小細工で死をごまかせる。
適当にパーカーでも落としておけば、形的にはそれっぽくなるし、600㎖の、まだ未開封のペットボトルをこの回数から落とせばそれなりに音は出る。
私は瞬間移動でユーリア達のところへ行く。又は家に帰る。そうすれば、恐らく気付かれることはない。パーカーは後で拾えばいい。
私のプランがまとまったと同時に音を聞きつけた一般人と残りの警察官がやって来た。私は敢えて向かい側の個室だけ解錠した。何故今こんなに魔法が使えているのかはわからないが、今しか出来ないことを、今するべきことを私はする。
えっ、と声に反応した人を雷が貫いたのか、それ以降声は聞こえなかった。代わりに、ひとつの足音が聞こえた。
-殺し損ねた。
私の心には焦りが現れた。
だが、あの子窓-あのガラスをぶち破れば-
私は野生獣のような速さで窓まで飛び移るとガラスの破片とともに、狂笑しながら落ちた。
-空間よ、我が意に従え
to be continued
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。