第22話

私は何?
85
2018/01/11 09:30
 14年前、少女は生まれた。
生まれてすぐに出した高熱で死にかけはしたものの、幸い後遺症などはなくその後無事育っていった。
そんな少女は人一倍賢かった。
少女は8歳、もう両親のいなくなったひとりぼっちの家の中で虚空に問いかけた。
『どうして私には心があるの?』と。
心がなければ、感情を知らない。
感情を知らなければ、親を亡くしても悲しまない。
悲しみなんて、要らない-
そう思っていた彼女はそれ以降人前で本当の、心の底からの笑顔を浮かべたことは無かった。
 8歳という幼さで心について疑問を持った少女は11歳の時、その疑問を感じる心も、それの答えを求める心も、すべて閉ざしてしまった。
-もう何も望まない。
望めば、その分何かを失うから。
-もう何も知りたくない。
知識を得たところでそれが役立ったことが未だにないから。
-唯一知りたいのは、

『愛』。

他人に愛されるって何?
愛情を注いでもらうって、どうやって?
愛し合うって、何?
そもそも愛することが理解らない。
愛が、理解らない。
好きも愛も恋も、全部全部理解らなくなってしまった。それなのに、何故かその反対の嫌いは理解る。
それが何故なのかも、まだ少女は知ろうとしなかった。
 少女はそんな愛へ対する疑問を最後に、何に対しても疑問を抱えることはなくなった。-筈だった。
笈原優夢14歳、現在なんと今まで自分が一番理解っていると思っていた『自分自身』に疑問を抱いている。
それもそのはず、生身の人間にして強大な力を持つ魔法使い『夢の操り手』。
夢を入れ替えることは容易で、つい先日誤って魔法で人1人殺してしまった存在。
そんな自分は、一体何なのだろうか。
『夢の操り手』と言われればそれでおしまいだ。
だが、それではいけない。
何故なら彼女の体-肉体はあくまでも生身の人間そのものだから。
人間の体を持った魔法使い-わけが理解らない。
どう考えても至る結論が『不明』-そんなことを『ちんぷんかんぷん』と言う。でも、今の自分という存在は正しくそれなのだ。
どれにも該当して、どれにも該当しない者。
もうただの多細胞生物でいいんじゃないかと、そう思ってきた頃に。
自分によく似た、赤い瞳、赤いリボン-まるで双子のような見た目の自分の前世がやって来た。
ユーリア
ユーリア
優夢〜、そんなクソムズい数式で紙を埋めるなんて紙が可哀想だよ〜
優夢
優夢
…だって、私って何?
『夢の操り手』-たしかにそう。
でも、体は人間。魂も人間。違う?
 -たしかにそうだ。
否定は出来ない、とユーリアは口を噤んだ。
優夢
優夢
私に生まれた疑問が…私自身………私、は…
 そこまで言うと優夢は俯いた。

-そう、誰にもわからない。
自分の本心としては人間のままでありたかった。
でも、それはどうにも叶いそうにない。
その現実に、やっと取り戻し『かけた』心が遠のいていく気がして。
そっと、そっと眼を閉じた-
to be continued

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