確かこれは、小学校の時の事だ。
この頃、中学校の受験に向けて必死で勉強していた。
父は、有名な医者。母は、大手企業の社長秘書。
お姉ちゃんは……。中学生で、テニス部。
結構、強いらしい。全国大会で優勝か準優勝かってところまでいったって。
どっちだかは、忘れた。
頭も良くて、私立の中学校に通っている。
こんな風に、全員頭が良い。
だから、私も頭が良いかというと、そうではない。
今だって、高校の勉強についていくのにやっとだし。
妹が落ちぶれているからか、お姉ちゃんは皆から好かれる。
お父さんにも、お母さんにもニコニコされてて。
学校の通知表を見ても、悪い成績がついているところなんて見たこと無い、
私とは大違い。
お姉ちゃんに、追いつきたくて中学受験頑張った。
最初は、お母さんに押しつけられていた受験だった。
でも、認めてもらいたくて。何より、
偉いねって。褒めてもらいたくて。
―――――受験結果発表の日。
パソコンに、受験結果がメールで送信される。
私は、パソコンにはりついてメールが来るのを待った。
ヴーヴー。受信音がなった。
ドキドキと震える手でメールを開いた。
「合格」
という文字が見えた。
お母さんに、見せにいくと点数を見てこう言った。
褒めてもらえる。
やっと、お姉ちゃんに追いついた。
そう思ったのは、私だけだった。
合格したのに。その事には何も言わないんだ。
頑張ったねも、偉いねも無いんだ。
悲しくなって息を吐くような小さな声で
そう呟いて部屋へ向かった。
ドアを閉めたとたん、涙が零れた。
床のカーペットが涙の落ちたところを、濃く色付ける。
もう我慢できない。
その場に座り込んで、声を潜めて泣いた。
大きな声を出したら、負けだと思いひっそり泣いた。
やっぱり、やっぱりなんだ。
お姉ちゃんの事が皆好き。
お姉ちゃんは私と違って頭が良いから。
美人だから。
いつも、笑顔だから。
私なんて、私なんて。
要らないんだ。
小学生の私は独りそう思いながら、泣き疲れるまで泣いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!