「失礼しまーす、お疲れ様でーす…」
春の放課後。3年生になったばかりの私は受験の話を長々と聞かされた後に部室である放送室に行く。
毎週火曜日と木曜日が活動日なんだけど、とても居心地が良いので、土日と祝日以外はほぼ毎日通っている。
「あっ!あなたちんお疲れー!先生の話長引いたー?」
同い年の放送部員、杉田夢乃(すぎたゆめの)ちゃんが笑顔で抱きついてくる。これが挨拶で、毎日の日課。
「あっゆめちゃん、遅れてごめんね!先生の話長引いちゃって!」
「気にしなーい気にしない!まだ基礎練やってないし!」
あ、そうなんだ…そういえば発声する声聞こえなかったな…と改めて周りを見回してみる。
と、放送室内の隅にあるパソコンの椅子に座る、見たことがない男の子に目が止まる。
サッパリと男の子らしく切られている黒髪と、やや太い眉毛にパッチリとした目。人の良さそうな笑顔をこちらに向けていた。
運動部にいそう…。
「え、…と?
新入部員の子かな??」
「あっ、そうそうこの子!今月末にある球技大会で、忙しいからお手伝い頼んだのー!」
そうゆめちゃんが言うと、男の子はこちらに身体を向け、丁寧に、でもハキハキと自己紹介をした。
「球技大会、お手伝いをさせていただきます、2年の佐藤拓也(さとうたくや)です。よろしくお願いします」
「は、はぁ。よろしく…お願いします」
年下だった。
なんだか年下に思えないくらい大人びている。
…外見はそうでもないけど。
じっと佐藤くんを眺めているとまた、にこっと柔らかな笑みを向けられた。
男性経験は人並みにはあるものの、未だ男慣れしていない私はすぐさま目を逸らしてしまった。
顔、赤くないかな…?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!