「なんで………」
午後4時半。妹弟が学校から帰ってきて遊びに行く時間。
これまでに作ったマカロンの数はおよそ50個。
…成功は、0個。
「どうして…練習では上手くできたのに…!」
時間が時間で焦燥感に襲われる。
マカロンは表面を自然乾燥する事が大切で、1時間位かけて乾かす。もうすぐお夕飯の準備をしなきゃいけないのに。
メレンゲはちゃんと作った。
マカロナージュも太いリボン状になるまでした。乾燥もさせた。なのにピエが出来ない。
そのせいで表面も中もカリカリだ。
「こんなのじゃ、佐藤くんに渡せない…」
ポツリと呟いた。涙が出そうになる。
「あらどうしたの、こんなにお菓子を作って」
唐突に声が降り掛かってきて、俯かせていた顔を上げる。と、そこには「ただいま」と微笑む私の母がいた。
「お母さん……」
「そう、ピエができないのね。…メレンゲはちゃんと作った?」
「うん、ツノがピンと立つまで。」
そう言うと、お母さんはふとキッチンを見渡した。
「……そのシュガースティックはなぁに?」
お母さんはトップバリュのシュガースティックを指さす。
「あ、それはグラニュー糖の代わりで…近所のスーパーにグラニュー糖なかったから、メレンゲ用に。」
丁度いつも使っているサン黄糖もお店にも家にもなかったし。
「…それじゃないかしら…?」
え。
「そう、なの?」
「粉糖は余ってる?」
あるよ、と差し出す。
「じゃあ、それで作ってみましょう」
にこり、と母が笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!