「…外には出られない、か。まぁそう簡単に出られるとも思ってなかったけど…」
激しい雨の中、玄関に立てかけてあった黒い傘をさしてこちらに駆け寄って春輝が言った。
そのはるか後ろには、見上げるほどに大きな黒い門がある。
所々錆びているのに、春輝がどれだけ揺すっても何も起こらなかった。
ふと、春輝がどこかを指差した。
「あっちの方、何か光ってないか?」
春輝の目線を追って窓を見ると、確かに少し離れたところの窓にかすかな明かりが見えた。
遠目なのではっきりしないが、小さく揺れているのが分かる。蝋燭か何かだろうか。
「行ってみよう」
春輝が言った。
「でも、何かいたらどうするの…?」
もし、向こうにあの女を殺した犯人がいるとしたら。
今度こそ、私達はどうなるか分からない。それこそ、命の保証なんてないのに。
「大丈夫だよ。近くまで行って様子を見てから、どうするかをまた考えればいい」
そりゃあ、春輝ならできるかもしれない。
でもそれは、前提として私の足が正常である必要がある。
捻った右足首は先程よりも熱を帯びていて、何とか歩くことは出来るものの、走るなんて出来そうになかった。
「…もしもの場合は、莉央は本館に隠れてて。俺が一人で行くから」
私の空気を察したのか、真剣な表情で春輝が呟いた。
「え、…っ」
一人になるのは嫌だ。春輝が心配。死なないで。
色々な思いが出てきては渦巻く。
ふと、倒れていた女の姿が浮かんできた。
心配じゃないわけがない。
不安じゃないわけがない。
でも、もしかしたら。他にも同じように怯えている人がいるかもしれない。
だったら、助けなきゃ。
私も覚悟を決めた。
「…死なないでね」
春輝は少し驚いたみたいだったけど、私の覚悟が伝わったんだろう。すぐに真剣な表情に戻って
「…うん」
呟くと、私にそっとキスをした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。