第4話

予選 4
185
2018/04/23 04:24
「……」

沢山の影が揺れる、雨音が煩く響く廊下で。
私は一人、窓の外を眺めていた。

正確に言えば、眺めているのは窓の外に見える小さな明かりなんだけど。

と、一階の方になすかに明かりが見えた。私の方を確認すると窓際に寄ってきて、明かりが動く。

円形に動かされるそれと同じように手に持った蝋燭を揺らすと、それは奥に消えていった。

あれは…春輝だ。
私が頼んだのだ。春輝だけで行ってほしい、私はここからあの明かりを見張っているから、と。

「…はぁ」

春輝は快く引き受けてくれた。それどころか、さっきも言っただろって、笑って頭を撫でてくれて。

でも…どうしてだろう。自分で決めたことなのに、

「…ほんとにこれでよかったのかな……」

考えてしまってから、はっとする。
だめだよ、春輝だって覚悟を決めてるのに。

それにどうせ行っても足でまといになるだけなんだから。私は私に出来ることをしなきゃ。

そう自分に言い聞かせるも、絶えず高鳴り続ける心臓を落ち着けようと呟いてみた。

「…絶対に、死なないで」

___いつの間にか、激しく降っていた雨は止んでいた。










「……あ」

突然、激しい寒気を感じてはっとする。慌てて周りを見るも、特に何もなかった。

どうやら、少しぼうっとしてしまっていたようだ。

色々なことが立て続けに起こったからなぁ…

そういえば、ここにきてから何時間たったんだろう。何も食べていないせいでお腹がすいてきた。
それにとっても寒い。ああ、早く家に帰りたい…

そんなことをひたすら考えながら、雨の渇いた窓ごしに別館を見つめていると、向こうの明かりが揺らめいた。

それも、これまでにないほどに大きく。

「!!」

慌てて窓に張りついて向こうを見る。暗い闇のなか、ぼんやりと窓に近づいた少女が写った。

遠目でよく分からなかったけれど、少女が僅かに目を見開いたように見えた。と、ほぼ同時に。

手に持っていた蝋燭が、取り落とされた。

「えっ?!」

あまりの出来事に驚き、声を上げる。たちまち炎は広がり、廊下はすでに火の海だった。

「春輝……春輝っ!!」

たまらなくなって、叫びながら階段を駆け下りる。
何度も何度もバランスを崩し、転びながら外に飛び出した。

大丈夫……きっと、春輝は生きてる。
だって約束したじゃない。
絶対死なないって、約束したじゃない。

呪文のように心の中で何度も唱えながら、無我夢中で走り続けた。

ようやく辿り着いたときには、既に炎は別館全体にまで広がっていた。息が詰まる。

それでも納得できなくてふらふらと歩み寄る。何とか窓を割って中に入ろうと手を伸ばすと、指に強烈な痛みと熱が伝わってくる。

「ひあっ…!」

無意識に叫ぼうと息を吸ったところで、煙にむせて激しく咳き込む。涙まで出てきた。

よろよろと数歩後ずさると、力が抜けてその場に崩れ落ちた。酷い煙に目の前が霞む。でもそんなことはどうでもよかった。

「うっ…うああああああああああ!!!」

私は地べたに座り込んだまま、大声をあげて泣いた。

その時になって、私はようやく理解した。


桜田春輝は死んだのだと。

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