「ああああああ…っげほ、ごほッ がはっ」
周りなんて気にせず大声で泣き叫んでいると、突如激しく咳き込んだ。
叫びすぎて喉が駄目になったんだろうか。
それとも、大量に煙を吸い込んだせいでむせたのか。
「ひぐっ…う、ぅ…」
どっちだっていい。今はそんなことどうでもいい。
今の私には一つしかなかった。
春輝が死んだ。
それも、私のせいで。
私はむせび泣きながら、心の中でひたすら春輝に謝っていた。
そんなことをしたところで何も変わらないのはわかっている。でも、何かせずにはいられなかった。
自己満足だなんて知ってる。私が一番、理解している。
それでも。
__ごめんね、春輝……ごめんなさい。
手で顔を覆って俯いていると、どこかから声が聞こえてきた。
「嫌だあああっ、お姉ちゃん!!死んじゃ嫌だよ…っ」
甲高い声に振り向くと、一人の少女が駆けて来ていた。
その姿を見て、私ははっと目を見開く。
よろよろと力なく歩み寄ると、私に気づいた少女が首を捻ってこちらを見た。
何か言おうと、口を開きかける。もしかしたら、何か言ったのかもしれない。
でも、そんなものちっとも頭に入ってこなかった。
おもむろに襟を掴むと、強引に地面に倒した。その上に跨って座ると、少女は目を見開く。
__その姿は、別館で蝋燭を落とした少女その人だった。
「あんたのせいで……あんたのせいで、春輝が……」
思い出したらまた涙が出てきた。
そっとそれを空いた左手で拭う。
こいつのせいで、別館が燃えた。そのせいで、春輝が死んだ。
こんな…こんなの、許せる訳ない…!
「何てことしてくれんの……あんた、何てことすんの?!
春輝が死んだの!あんたのせいで!あんたが別館を燃やしたから!!」
襟を掴む手に力がこもる。
そのままぐいっと引っ張って、しっかりと目を見据えた。
「何とか言ったら?!何で黙ってんの!何か言えよッ、ほら!!」
襟を掴んだまま激しく手を揺らすと、それに合わせて首もガクガクと揺れた。
ゆっくりと私の目を見ると、少女は口を開く。
「私……」
小さく呟くと同時に、その目にじわりと涙が浮かぶ。
それすらも、見ていてものすごくイライラした。
「嘘泣きとかいらないし!私はそんなのに騙されない!無駄なんだよ、だから早く…」
「そんなんじゃないって!!」
突如、耳鳴りがしそうなくらいに甲高い声で少女が叫んだ。
至近距離で大声をあげられて耳が痛くなり、襟を離して両手で耳を塞いだ。
「私のせいで人が死んだ!私が殺した!そんなの分かってるよ!!
お姉ちゃんもその春輝って人も、私のせいで……っ」
少女は泣き叫ぶことはしなかったけど、嗚咽を漏らして泣きだした。
でも、それじゃあ私が悪いみたいじゃないか。酷い罪悪感に胸が苦しくなる。
私もこの子も、自分のやったことを反省している。
なら、私は何に縋ればいいの?
何のせいにすればいい?
「だったら…」
ボソッと呟くと、少女は僅かに声を落とした。
それがさらに、私の中に罪悪感を募らせていく。
「…だったら私、何のせいにすればいいの?
何かのせいにしなきゃ、平静でいられないのに…」
そのまま、再び泣き始める。
涙が落ちて、少女の服を濡らした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!