第5話

予選 5
172
2018/04/23 04:32
「ああああああ…っげほ、ごほッ がはっ」

周りなんて気にせず大声で泣き叫んでいると、突如激しく咳き込んだ。

叫びすぎて喉が駄目になったんだろうか。
それとも、大量に煙を吸い込んだせいでむせたのか。

「ひぐっ…う、ぅ…」

どっちだっていい。今はそんなことどうでもいい。

今の私には一つしかなかった。


春輝が死んだ。


それも、私のせいで。


私はむせび泣きながら、心の中でひたすら春輝に謝っていた。

そんなことをしたところで何も変わらないのはわかっている。でも、何かせずにはいられなかった。

自己満足だなんて知ってる。私が一番、理解している。
それでも。

__ごめんね、春輝……ごめんなさい。


手で顔を覆って俯いていると、どこかから声が聞こえてきた。

「嫌だあああっ、お姉ちゃん!!死んじゃ嫌だよ…っ」

甲高い声に振り向くと、一人の少女が駆けて来ていた。

その姿を見て、私ははっと目を見開く。

よろよろと力なく歩み寄ると、私に気づいた少女が首を捻ってこちらを見た。

何か言おうと、口を開きかける。もしかしたら、何か言ったのかもしれない。
でも、そんなものちっとも頭に入ってこなかった。

おもむろに襟を掴むと、強引に地面に倒した。その上に跨って座ると、少女は目を見開く。

__その姿は、別館で蝋燭を落とした少女その人だった。


「あんたのせいで……あんたのせいで、春輝が……」

思い出したらまた涙が出てきた。
そっとそれを空いた左手で拭う。

こいつのせいで、別館が燃えた。そのせいで、春輝が死んだ。
こんな…こんなの、許せる訳ない…!

「何てことしてくれんの……あんた、何てことすんの?!
春輝が死んだの!あんたのせいで!あんたが別館を燃やしたから!!」

襟を掴む手に力がこもる。
そのままぐいっと引っ張って、しっかりと目を見据えた。

「何とか言ったら?!何で黙ってんの!何か言えよッ、ほら!!」

襟を掴んだまま激しく手を揺らすと、それに合わせて首もガクガクと揺れた。

ゆっくりと私の目を見ると、少女は口を開く。

「私……」

小さく呟くと同時に、その目にじわりと涙が浮かぶ。

それすらも、見ていてものすごくイライラした。

「嘘泣きとかいらないし!私はそんなのに騙されない!無駄なんだよ、だから早く…」

「そんなんじゃないって!!」

突如、耳鳴りがしそうなくらいに甲高い声で少女が叫んだ。

至近距離で大声をあげられて耳が痛くなり、襟を離して両手で耳を塞いだ。

「私のせいで人が死んだ!私が殺した!そんなの分かってるよ!!
お姉ちゃんもその春輝って人も、私のせいで……っ」

少女は泣き叫ぶことはしなかったけど、嗚咽を漏らして泣きだした。

でも、それじゃあ私が悪いみたいじゃないか。酷い罪悪感に胸が苦しくなる。

私もこの子も、自分のやったことを反省している。

なら、私は何に縋ればいいの?
何のせいにすればいい?

「だったら…」

ボソッと呟くと、少女は僅かに声を落とした。
それがさらに、私の中に罪悪感を募らせていく。

「…だったら私、何のせいにすればいいの?
何かのせいにしなきゃ、平静でいられないのに…」

そのまま、再び泣き始める。
涙が落ちて、少女の服を濡らした。

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