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第12話

予選 11
68
2018/04/23 04:41
「この館には…ヴァンパイアがいる」


「ヴァンパイア…?それって人間の血を吸うっていう、あの…?」

零がパチパチと瞬きを繰り返しながら聞き返す。

それには全くもって同感だった。私だって意味がわからない。

「そう、そのヴァンパイアだよ。生命力も再生能力も高い、いわば最強の存在だ。
そいつが、人間に混じってこの館に潜んでいる」

幼い子供に読み聞かせでもするかのように、ゆったりと落ち着いた口調で陽介が語る。

「でも…そんなの、物語のなかの存在でしょ?現実にいるわけないじゃない」

ありえない、と零が首を振る。

その気持ちは充分に理解できた。
まぁ、こんなありえないだらけの場所ではもしかしたらありえるのかもしれない。
でも…

「……そんなの、信じたくない」

その言葉が響いたとたん、皆が一斉に顔を上げて私を見た。

そこで私は初めて、それが自分の言葉だったと気づいた。

その視線から逃れるように、私はすっと目を逸らして長く垂れる髪を掻き上げた。

「…同感です」

呟くような小声で、詩織が言った。今度は彼女に視線が移る。

全員から視線を浴びて一瞬たじろいだものの、詩織はハッキリと告げた。

「だって…この中にヴァンパイアがいる、なんて。怖いから…信じたくないのも、分かるかなって」

おどおどした見た目や態度からは考えられないくらい、ハッキリと意見を言う詩織。

そんな詩織に、星也がすっと寄って声をかける。
詩織の遠慮も聞かず、無理に続ける星也。

その様子を顔を顰めながら見ていた夕梨が、面白くなさそうに口を開く。

「ねぇ、それよりもさぁ?二人からも話聞いた方がいいんじゃないの?ここに来た時のこととか…夕梨には聞いたじゃん」

先程までとはだいぶ態度が違う。やっぱりこういうタイプは裏が怖い。
詩織もびくりと肩を竦めた。

「そうだな。じゃあ、お前…八神だっけ?お前から話せ」

「えっ、私?ちょっと…何を話せっていうのよ?」

突然名前を呼ばれて驚いた零に、唯人が続ける。

「ここに来てから、俺らと会うまでのことだよ。…てか、話くらい聞いとけよ」

「そんなこと一言も言ってなかったじゃない」

「あ?さっき夕梨が言ってたろーが」

「そんなの知らないわよ!」

ムッとしたように反論する零に、負けじと言い返す唯人。

まぁまぁ、と陽介が間に入った。そこではっと気を引き締める。

いつヴァンパイアに襲われるか分からない状態で、こんなアホらしいやり取りいつまでもしてらんない。

「その話、私も聞きたいと思ってたんだよね」

私が言うと、零は口を閉ざした。唯人も、陽介に注意されて悔しかったのだろう、途端に大人しくなる。

「じゃあ、話してくれる?」

零は頷くと、ゆっくりと語りだした。

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