第6話

事件
83
2017/11/13 11:13
黒色の雲が空を埋め尽くすなか、私は屋上にいた。
冷たく鋭い風が、私の体を突き刺すように吹き荒れる。
だが、そんななかでも私の目はフェンスの奥にいる“彼女”を凝視していた。
「なんで…」
私の口からは、ただただその言葉が溢れるばかりだった。





ーーー遡ること数十分前ーーー






「あれー?ルリー?」
ルリの教室のドアを開けたが、ルリの姿は見当たらなかった。
部活が終わったのでルリと帰ろうと、ルリが待っているであろう教室へ向かったが、生憎その姿は無かった。 
「あれー?どこ行ったんだろ」
ルリが行きそうな場所を片っ端から探したが、見つからない。
最終的に職員室に行き当たった私は、担任の先生にルリを見なかったか聞いた。
すると、思いもよらない返答があった。
「んー?あいつなら、十分くらい前に屋上の鍵を借りに来たぞ?」
「屋上?」
「絵を描きたいんだと」
なるほど。と私は一人で納得した。
美術部のルリは、休日でも絵を描く程、絵を描くのが好きだ。
先生にお礼を言うと、屋上へ歩き出した。
でも、なんで屋上なんだろう?
時刻は既に5時を回っている。
年を明けたばかりの今は、すぐに日がくれてしまうから、もう外は真っ暗だ。
それに今日は夕方から雨が降る予報が出ている。
なんでわざわざ今日屋上で…
そこまで考えたとき、屋上にたどり着いた。
ドアノブをひねる。
キィ…と音がして、簡単に開いたドアの先には、見慣れた人物が、“見慣れない場所”に立っていた。
「ルリ!?何やってんの!?」
私が叫びに近い声で呼びながら駆け寄ると、ルリはゆっくりとこちらを振り向いた。
ルリが今立っている場所は屋上のフェンスの先にある小さな空間だ。
この屋上はビルの5階と同じ高さ。
1歩でも間違えるとただじゃすまない。
そんなところになんでルリが…
「なんで…」
質問したいことは山ほどあったはずなのに、私の口から出た言葉はそれだけだった。
私が言葉を投げ掛けても、ルリは悲しそうに目を伏せるだけだった。
ルリの2つに結われた長い栗色の髪が、風に煽られて大きく弧を描く。
黒色の雲が低く漂っていて、ルリの小さな体を隠してしまいそうだった。
「ルリ!早くこっちに…」
「あなたちゃん」
まるで私の言葉の続きを言わせないようにルリは遮ると、目に涙を浮かばせながら悲しそうに笑った。
「…ゴメンネ」
そう言うと、ルリはーーーー







重心を後ろにずらし、屋上の下へ吸い込まれていった。







「ルリ!!」
必死に手を伸ばすが届かない。
下を覗いても黒色の雲で遮られていて見えなかった。
私は独りになった屋上で、しばらく呆然としながら行き場の失った手を見ていたが、はっと我に返ると今来た道を全速力で戻った。
ルリの元へ行かなければ。
私の頭にはそれしか残っていなかった。





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