「……はい?」
店員さんが驚いたようにパチパチと瞬きした。
そこで私は正気に戻った。
――待ってバカなの私!?私からしたら好きな人の名前を知りたいってだけだけど、店員さんからしたらお客さんからいきなり名前聞かれる感じだよ!?私だったら普通に引くよ……!?
猛烈に時空を超えるあの機械に乗りたくなる私だったが、それで時間が巻き戻るわけは当然なく。私と店員さんの間に痛い沈黙が流れた。
ああ終わった……明日からここ来れない……。
「……名前って、僕のですか?」
返事きた!?
「あ、はっはい!あなたので……す」
あなた!?初めて言った!!てか相手がっつり年上なんだけど「なんだこいつなめてんのか」とか思われてないかな……!?
不安に駆られながら店員さんの反応を伺う。嫌わないでくださいお願いします……。
――ふっ、と店員さんの目が優しくなった。
「奈倉(なくら)綾斗(あやと)です」
店員さんはそう言って、ふわりと柔らかく笑った。
ドキンッと、店員さんに聞こえるのではないかと思うほど大きく胸が高鳴った。
「いろんな所でバイトをしてきましたが、名前を聞かれたのは初めてです」
どこか楽しそうに話す店員さん……奈倉、さん。
名前を知って、好きな(この)人に一歩近付けた気がした。
恋って、こんなにいいものなんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。