第7話

「……はい?」
644
2017/11/06 09:31
「……はい?」

店員さんが驚いたようにパチパチと瞬きした。

そこで私は正気に戻った。

――待ってバカなの私!?私からしたら好きな人の名前を知りたいってだけだけど、店員さんからしたらお客さんからいきなり名前聞かれる感じだよ!?私だったら普通に引くよ……!?

猛烈に時空を超えるあの機械に乗りたくなる私だったが、それで時間が巻き戻るわけは当然なく。私と店員さんの間に痛い沈黙が流れた。

ああ終わった……明日からここ来れない……。


「……名前って、僕のですか?」

返事きた!?

「あ、はっはい!あなたので……す」

あなた!?初めて言った!!てか相手がっつり年上なんだけど「なんだこいつなめてんのか」とか思われてないかな……!?

不安に駆られながら店員さんの反応を伺う。嫌わないでくださいお願いします……。

――ふっ、と店員さんの目が優しくなった。

「奈倉(なくら)綾斗(あやと)です」

店員さんはそう言って、ふわりと柔らかく笑った。

ドキンッと、店員さんに聞こえるのではないかと思うほど大きく胸が高鳴った。

「いろんな所でバイトをしてきましたが、名前を聞かれたのは初めてです」

どこか楽しそうに話す店員さん……奈倉、さん。

名前を知って、好きな(この)人に一歩近付けた気がした。


恋って、こんなにいいものなんだ。

プリ小説オーディオドラマ