一週間が経った。
「じゃあねー!」
みんなからの「バイバイ」を受けて、あなたは更衣室を出る。
弓道場の下駄箱へ向かう途中で、大毅とすれ違った。
「ばいばーい!」
「おー、じゃな……」
そして下駄箱から瞬速で靴を出して履き、ドアの外から弓道場に一礼してコンビニへ一直線に駆け出す。
そんなあなたを大毅は謎に思っていた。
(最近やけに機嫌いいなあいつ……。部活後に何かあるのか?)
「あ、大毅……くん」
偶然通りかかった紗耶佳が、一度は目が合った大毅から気まずそうに視線を外す。
そのまま立ち去ろうとしたので、大毅は紗耶佳の腕を掴んでそれを止めた。
「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ」
「……何もない、よ」
「『言おうか言わまいか迷ってる』ことも言え」
紗耶佳が肩を揺らして反応した。つまり、言おうか言わまいか迷ってることはあるということだ。
「なんだよ」と再び大毅が問う。紗耶佳は視線をさまよわせ、最後まで迷ったが、自分が言うまで大毅は腕を離してくれないだろうと思い、ついに観念した。
「……あなたちゃん、彼氏ができたんだよ」
「…………は?」
信じられない発言に大毅は目を見開いた。
更に紗耶佳は言う。
「あなたちゃんこの前、好きな人できたって言ってたの憶(おぼ)えてる?ファリマの店員さん。あの人と付き合ってるんだよ、一週間前ぐらいからね」
これで全部、と紗耶佳は締めくくる。しかし、大毅は微塵も納得していなかった。
――あなたに何年も片想いしてて、いつか両想いにって思ってたのに……コンビニの店員なんかが横取りした?
「……サンキュ」
「あっ、うん。いえいえ」
大毅が怒りを見せなかったことに驚く紗耶佳だが、あまり長居して巻き込まれるのは嫌なので素早く退散した。
だから気付かなかった。大毅の瞳が鋭くなっていたことに。
「……あなたは、俺のだ」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!