目覚ましの音が脳内に響いてくる。
うるさ……てかなんで私日曜なのに目覚ましかけてんの?昨日午前練だったし寝たいんだけど……。
「じゃない!!」
ガバッ、と私は飛び起きた。
そうだった、今日デートだった……!
「えっとこれとこれと……あーイヤリングつけよ!」
昨日あんな形で別れてしまったので、綾斗さんが来るかはわからない。でも、来るかもしれない。その可能性を捨てきれずに、私は素早く着替えを済ませた。
階段を駆け下り、手洗い場に立ってショートの髪をくしでとかす。それから彩香が教えてくれたように左サイドの髪の毛を編み込んで、リビングに駆け込んだ。
「母さん今何時!?」
「?9時過ぎよ」
「え……あ、そうなんだ」
待ち合わせは10時半。歩いていく時間を除いても、一時間は余裕があった。
すごい無駄に焦ってた……。てか何私、昨日気まずいとか思ってた割に絶対遅れない二時間前に目覚ましセットしてたんだ。めちゃめちゃ楽しみなんじゃん。
……はい。楽しみです。ごめん大毅。
「ご飯食べよ……」
椅子を引いて腰掛け、冷めたご飯を食べていると、母さんが何の気なしに言ってきた。
「友達と会うのに、随分気合い入ってない?」
「!?」
ギクーンと体が硬直する。
母さんには、会う相手が綾斗さん……彼氏ということは伏せて「友達」と伝えた。だからだろう、精一杯おしゃれした私の格好を不思議に思っている。
どうすればいいの……?今更白状したくないよ!?家族に彼氏できたって知られるの恥ずかしいじゃん!!
特に姉ちゃん達にはバレたくない……!
「……まぁいいけど」
母さんがテレビに目を向けて、ホッと息をつく。
よかった深く聞かれなくて……あ、そうじゃなくて逆にわかったから聞くのやめたのかも?
……考えても仕方ない!もう出よう!
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
少し踵の高い靴を履いて、私は玄関の扉を開けた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!