夜が明け――月曜日。
大毅は部活後、ファリマの自動ドアを潜った。
中にあなたの姿はない。当たり前だ、大毅自ら「行くな」と言ったのだから。
「いらっしゃいま……せ」
綾斗が一瞬驚いたような顔をするが、すぐに営業スマイルに変わった。
大毅はスタスタと歩いて、奥のレジに立つ綾斗と向かい合った。
「お前、昨日あなたとデートの予定だったんだってな」
大毅が睨むように綾斗を見上げる。
綾斗は予想外だったのか、驚きを隠せていなかった。
「しかもすっぽかした。あいつ1時まで待ってたんだぞ。一人で、泣きそうになりながら」
「……申し訳ないと思ってる。だけど、昨日は」
「『だけど』じゃねぇ。お前にあいつの不安がわかるかよ。来るかもわからずに一人で待ち続けてたあいつの不安が」
遮って大毅は言った。紡(つむ)がれるはずだった綾斗の言葉が喉の奥に引っ込み、消える。
「両想いでも、『コンビニ店員』じゃあいつとの繋がりなんか幼馴染み(俺)に比べたらないも同然なんだよ」
綾斗が息を詰まらせる。突きつけられた現実に、顔を俯かせた。
――ここまで言っても言い返さねぇのかよ。
大毅は失望し、ファリマの出口の自動ドアへ足を進めた。
その手を、誰かが引き止めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。