「えっ……お姉さんの試験!?送ってあげてたの!?」
「うん」
綾斗さんは苦笑して肯定した。
土曜日。
とあるショッピングモールの二階、本屋の近くに設置されたソファに座り、部活帰りの私と綾斗さんは話していた。
親には「部活終わったら友達と遊ぶ」と言ってあるので遅くなって問題なし。綾斗さんのバイトは午前で終わりだそうで、こちらも問題ないらしい。
そして、話は他愛ないものから、大毅とのこと、綾斗さんがデートに来れなかった理由へと移っていた。
――いや……来れなかったではなく、正確には“4時間半の大遅刻”だった。
「姉さんは保育士の資格取ろうとしてるんだけど、実技試験がちょうどデートの日だったんだ。朝起きたら急に『間に合わないから送って』って言われてさ。その時は8時だったし、試験が行われる場所まで片道30分くらいだったから間に合うと思ってOKしたんだけど……試験場所まであと少しってところで、道路が大渋滞して」
聞けば、その試験場所の近くで大きな祭りがあったらしい。人が多い上に車の往来を制限されてなかなか進めず、帰りも同様に時間がかかって、待ち合わせ場所に着いたのは午後3時。私が大毅と帰った後だったのだ。
私は心配になって尋ねた。
「お姉さん、試験に間に合ったの?」
「うん。というか姉さん、渋滞を予想してたみたい。試験始まるの午後からだった」
「え……」
「そうなるよね」
僕もなった、と綾斗さんが笑う。
……はい……開いた口が塞がりません。
ん?――ちょっと待って?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。