「秀にぃって絶対あなた先輩のこと好きだと思うんですよねーっ…」
「へっ!?」
真白ちゃんが急にそう言い出したのはそれから更に1週間、4月の終わりだった。
昨日の練習試合の振り返りのため、スコア整理をしているところ。
「秀にぃってプレーしてない時あなた先輩のこと見てますよ、絶対。
それに、あなた先輩が前通る時だけわざとらしくそっぽ向いたり…」
!?
「な、な、」
た、確かに告られ(?)はしたけど…
他人から見てもそうなのかなぁ…
でも…私振っちゃってるし…
もう気持ち変わってるかもしれない…
「あ、もうそろそろ告白とかされるんじゃないですか、先輩!」
満面の笑みでこちらを向く真白ちゃん。
ぐっ…
「…あれ、私変なこと言いました…?
あ、もしかして…既に秀にぃ告ってる…とか?」
うぅっ…
顔が熱くなっていく感覚。
私の表情からなんとなく状況を読み取ったであろう真白ちゃんは両手で口を覆った。
「マ、マジですか…!」
もう何も言えない私。
「お、オススメですよ!
そこそこ勉強できるし、運動はもちろん出来ますし…顔も、我が兄ながらイケてると思いますっ!
あとはー、優しいし誠実だし…」
真白ちゃんが指を折りながら秀也くんのいいところを挙げていく。
「そうだね…」
私も…いい人だと思うよ。
心から、そう思う。
「あなたちゃーんっ」
「はいっ!」
弥生先輩がたくさんのノートを抱えて部室に入ってきた。
部員が大会の度に書いている部活ノート。
「これ、山下先生のとこに渡しに行ってくれない?
今、ちょっと手が話せなくて!」
「分かりましたっ!
あ、じゃあちょっと行ってくるね!」
「はいっ、続きやっておきますっ」
真白ちゃんに声をかけて部室棟をあとにする。
山下先生はバスケ部の顧問の先生で数学教師。
だから数学研究室か職員室にいるはず…。
体育館から校舎に続く渡り廊下。
「っわぁ!!」
校舎に入ろうとした時、段差につまづいてバサバサッとノートが落ちた。
私はなんとか無事、転ばなかった…。
「…またやっちゃったなぁ」
何でこんなに物落とすかなぁ…。
しゃがんで、ノートを一つずつ拾う。
部員全員分のノートは多い。
「はぁ…」
前は…秀也くんが助けてくれたな…。
ふと思う。
こんな小さなことでも、どうにかして秀也くんと結びつけてしまっている。
頭の中の片隅に、いつも秀也くんがいる。
私の中で秀也くんの存在はこんなにも大きいものになっていたんだって、気付かされる。
…私の小さなプライドで、秀也くんを振ってしまった。
後悔。
もう遅いかな…なんて、諦めてた。
ダメ。
この想い、断ち切るなんてできないよ…。
だったら潔く…今度は私が。
振られても後悔しないから。
むしろその方が、後悔しないから。
私、秀也くんに…
告白する。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。