「照れる…」
秀也くんがそっぽを向く。
「ふふっ。
なに、秀也くんかわいーっ」
私がそう言うとバッとこっちを向く。
「かわいい?」
あ。
秀也くんの顔が険しい。
「え、あ、えっとー…」
調子に乗りました、ごめんなさい。
「男子は可愛いって言われても嬉しくないですよーっ」
ぷくっとほっぺを膨らませる秀也くん。
あ、かわ…ん、んんっ。
口に出しそうになった言葉を咳払いでごまかす。
「先輩、思ったんですけど。」
「?」
「秀也くんって呼ぶのやめません?」
「え?」
秀也くんと呼ぶなと?
じゃあ私はなんと呼べば?
「もう今日から付き合うってことなんだし、呼び捨てにしません?」
「え。」
しゅ、秀也。
心の中で呼んでみる。
だ、ダメだ、恥ずかしすぎる。
「ね?
先輩、呼んでみて?」
うっ…
「いやぁ、秀也くんは秀也くんって感じなんだよねぇ…」
なんか、“くん”ってつけた方がしっくりくる。
私だけ?
「1回だけでいいから!」
ぐ…。
「しゅーやっ…。」
は、恥ずかしい。
ほんとに照れる。
秀也くんよりも呼ぶ方が照れる。
「…なんか、照れますね…」
「でしょー!?
やっぱ、秀也くんは秀也くんだよ。」
そう思うよ私は。
「まぁー、いっか、その内呼んでもらえれば。
いつかは呼び捨てしてくださいね?」
「へっ!?
い、いつかね…」
いつになることやら…。
「あ、じゃあ逆に。」
今度は私。
「敬語、2人でいる時なら使わなくていいよ?」
なんか、よそよそしくて。
「え、いいんですか?」
「うん。
てか、既に時々タメだよね。」
前から思ってたけど、秀也くん、私に対してタメ語使ってくる時ある。
まぁ、失礼とかは全然思わなかったけど。
「えっ。」
…自覚無しかい。
「それは…すみません。」
「だから、敬語じゃなくていいって〜」
「…分かった。」
わ、違和感!
「ふふっ」
心が温かくなる。
幸せってこういうことを言うのかな。
「先輩、こっち向いて。」
秀也くんに言われて顔を上げる。
「!」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。