第29話

幸せ
6,190
2017/11/13 01:04
「!?」


一瞬のことだった。


向いた瞬間、秀也くんの顔が近づいてきたかと思うと、唇に柔らかい感触。


頭がぼーっとする。


何秒間そのままだったのか、分からない。


口が離れて、目が合って、そして、秀也くんが目をそらす。


私たち、今、何した?


唇にまだ残ってる感覚。


まだ目の前がぼんやりしてる。


脳の思考は止まったまま、正常に動かない。


その時、秀也くんが言った。


「先輩が可愛いのが悪いんだよ。」


っ…。


かわいい?


なに、急に。


頭は働いてなくても、心はドキドキするようで。


あぁ、幸せだなぁって、考えなくても、感じてる。


ーピリリリリリリッ。


「!?」


機械音にビックリする。


「な、なに…」


「あ、オレのスマホ。」


鳴り続ける音。


着信音…?


「あ、やば、花村先輩からだ…。

…もしもし。」


秀也くんがスピーカーのボタンを押す。


「おい!

なにやってんだよ!

あなた見つけたって連絡来てから10分は経ってるぞ!」


「す、すみません…」


そうだった…。


忘れてた、秀也くんは私を迎えにここに来たんだった…。


「ごめんなさい、私が悪いんですっ。

私が引き止めちゃったんです…

一人で怖くて泣いちゃって…落ち着くまで一緒にいてもらってたんですっ」


半分嘘だけど半分ホント。


許してください先輩!


「ったく、みんな心配してたんだからな!

そーだ、秀也、罰として腕立て100回な。」


「マジっすか!」


「って言いたいとこだけど、あなたを待っててやったってことで、無しにしてやるよ。」


「あ、ありがとうございますっ。」


花村先輩優しっ。


「代わりにあなたがやるか?」


うっ、やっぱ鬼…。


「えっ、…わ、分かりました…。」


腕立て100回かぁ、キツっ。


「なんてな、冗談だよ。

早く戻ってこい。」


冗談か…優しいな、さすが花村先輩。


「「はいっ」」


電話を切る。


「ごめんなさい、先輩のせいみたいになっちゃって…」


「いや、引き止めたのは事実だし。

私のせいだよ。

じゃ、戻ろっかぁー。」


私はそう言って立ち上がり、歩きだそうとする。


えっ。


「…ほかの誰かに見られたらどーすんのっ」


私の手はがっしりと秀也くんに握られている。


「途中まで、こーしてよ?」


そう言って秀也くんは指を絡めてきた。


わ、こ、これって、恋人繋ぎっ。


「こんなに顔熱かったら…みんなになんかあったと思われる…」


顔に出やすいって、こーゆーこと?


「大丈夫、先輩泣いてたんだから。

そのせいで顔赤くなってるってことにしておけばいいよ。」


うぅ。


恥ずかしい。


けど、嬉しかった。


今日のことは、絶対忘れない。

プリ小説オーディオドラマ