「!?」
一瞬のことだった。
向いた瞬間、秀也くんの顔が近づいてきたかと思うと、唇に柔らかい感触。
頭がぼーっとする。
何秒間そのままだったのか、分からない。
口が離れて、目が合って、そして、秀也くんが目をそらす。
私たち、今、何した?
唇にまだ残ってる感覚。
まだ目の前がぼんやりしてる。
脳の思考は止まったまま、正常に動かない。
その時、秀也くんが言った。
「先輩が可愛いのが悪いんだよ。」
っ…。
かわいい?
なに、急に。
頭は働いてなくても、心はドキドキするようで。
あぁ、幸せだなぁって、考えなくても、感じてる。
ーピリリリリリリッ。
「!?」
機械音にビックリする。
「な、なに…」
「あ、オレのスマホ。」
鳴り続ける音。
着信音…?
「あ、やば、花村先輩からだ…。
…もしもし。」
秀也くんがスピーカーのボタンを押す。
「おい!
なにやってんだよ!
あなた見つけたって連絡来てから10分は経ってるぞ!」
「す、すみません…」
そうだった…。
忘れてた、秀也くんは私を迎えにここに来たんだった…。
「ごめんなさい、私が悪いんですっ。
私が引き止めちゃったんです…
一人で怖くて泣いちゃって…落ち着くまで一緒にいてもらってたんですっ」
半分嘘だけど半分ホント。
許してください先輩!
「ったく、みんな心配してたんだからな!
そーだ、秀也、罰として腕立て100回な。」
「マジっすか!」
「って言いたいとこだけど、あなたを待っててやったってことで、無しにしてやるよ。」
「あ、ありがとうございますっ。」
花村先輩優しっ。
「代わりにあなたがやるか?」
うっ、やっぱ鬼…。
「えっ、…わ、分かりました…。」
腕立て100回かぁ、キツっ。
「なんてな、冗談だよ。
早く戻ってこい。」
冗談か…優しいな、さすが花村先輩。
「「はいっ」」
電話を切る。
「ごめんなさい、先輩のせいみたいになっちゃって…」
「いや、引き止めたのは事実だし。
私のせいだよ。
じゃ、戻ろっかぁー。」
私はそう言って立ち上がり、歩きだそうとする。
えっ。
「…ほかの誰かに見られたらどーすんのっ」
私の手はがっしりと秀也くんに握られている。
「途中まで、こーしてよ?」
そう言って秀也くんは指を絡めてきた。
わ、こ、これって、恋人繋ぎっ。
「こんなに顔熱かったら…みんなになんかあったと思われる…」
顔に出やすいって、こーゆーこと?
「大丈夫、先輩泣いてたんだから。
そのせいで顔赤くなってるってことにしておけばいいよ。」
うぅ。
恥ずかしい。
けど、嬉しかった。
今日のことは、絶対忘れない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。