ロビーに戻ると少し不安げな顔をした秀也くんと目が合った。
優雨に連れられて奥に行ってしまったからだろう。
「大丈夫だよ」
口パクで秀也くんに伝える。
すると、秀也くんはニコッと笑って、ほかの部員達との会話に戻った。
…なんか秘密の恋っぽくて、胸がキュンとする。
自然とニヤける。
「あなた」
後ろから声をかけられ、振り返る。
「わ、中島先輩っ!
なんですか?」
明日の予定の確認かな?
「明日のスケジュールの事なんだけど…」
やっぱり!
私って冴えてる〜っ!
「はいっ、あ、弥生先輩と真白ちゃんも呼びますか?」
「あ、いや、もう2人には話してあって…」
あ、そっか…
私が戻るの遅くなっちゃったからいけないんだよね〜…
「すみません、私が早く戻ってこないばかりに…」
「え?
あぁ、大丈夫、気にしないで。
んで、…あ、やべ。
スケジュール表、部屋に置いてきちゃった。」
先輩がジャージのポケットを触る。
そういえば、私も部屋に置いてある。
「じゃぁ、部屋でやりますか?
そっちの方が静かですし…」
「あぁ、そーだな。」
私たちは部屋に向かった。
「んで、明日は主にドリブルとパスの練習だからここは、こーしてもらって…」
先輩に説明してもらったところをノートにメモる。
「分かりましたっ。」
「あのさ、あなたって好きなヤツとかいる?」
ドキッ。
え?
中島先輩?
「な、なんですか急にっ!」
ビックリしたぁ。
「いや、涼と弥生が付き合ってるだろ?
あなたもバスケ部内に好きな人いんのかなーと思って。」
…いますよ。
てか、今日が記念日になりました。
でもそんなこと言えないなぁ。
みんなのこと待たせて告白してたなんて…。
それに、中島先輩、別れてまだ1ヶ月。
なんか申し訳ない。
「いや、まぁ…」
濁してごまかす。
「オレさぁー、別れたんだよね、1ヶ月くらい前に。」
先輩が右手でペンを回しながら何気ない話のように言う。
「…」
なんて返したらいいのかわかんない。
「まぁ、知ってただろーけど。
だろ?」
「は、はい…。」
「はぁー、この部活、恋愛話には敏感すぎるよなー…
付き合っただの別れただの、話回るの早すぎ…」
…なんか、釘を刺されてるみたいで胸が詰まる。
「…恋愛禁止なんですか?」
「ははっ、いや、そーゆーわけじゃねぇよ?
ただ、オレが誰かと付き合いだしたらすぐに噂広まるんだろーなとか思っただけ。」
…もしかして先輩、好きな人でもできたのかな?
前の私なら、今の先輩の言葉にすごい不安になってただろーな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。