今なら、相談に乗ろうくらいの余裕がある。
秀也くんとぶつかった偶然のおかげ。
秀也くんが日曜日に誘ってくれたおかげ。
秀也くんが私を好きになってくれたおかげ。
先輩への届かない想いを消してくれたのは全部秀也くん。
私が黙っていると、先輩が口を開いた。
「なぁ、付き合ってくれない?」
へ?
「…どこにですか?」
どっか行くのかな?
「はっ!?」
先輩は驚いたように目を見開き、くくっと笑った。
「な、なんで笑うんですかーっ!」
なんか、こんなに笑ってる中島先輩見るの初めてかも…。
「はははっ、違う違うっ!
あなた、ホント鈍感だな。」
「?」
「まぁ、そういうとこも好きだよ。」
「へっ!?」
肝試しの時から“好き”という言葉に敏感になってる。
後輩として、って意味だよね?
「あ、今心ん中で“後輩として”とか思ったろ?」
「えっ!?
やっぱ私、顔に出てます?」
なんかみんなにお見通しで悔しい。
「うん、書いてある。
言っとくけど、それ違うからな。」
「!?」
「恋愛対象として、好き。
なんか、マネの仕事一生懸命にやってるとことか、ちゃんと話聞くとことか、後輩への指導も丁寧だし、試合の時誰より声出して応援してくれるし、いつの間にか目で追うようになってさ。」
!?
「気づいたら、好きになってた。」
!?!?
なに…
私、中島先輩に告白されてる!?
「え…」
そんな…
ドキドキ。
先輩が、私を?
あ…。
優雨のさっき言ってた言葉が頭に浮かぶ。
モテモテ…
そういう意味か…。
優雨は…中島先輩の気持ちを知ってたんだ…。
それに、思えば変な話だ。
スケジュールの確認なら、部長の花村先輩から話があるはず。
「付き合ってくれない?」
…先輩。
私は俯く。
先輩の顔、見れない。
「…ごめんなさいっ…。」
気持ちは凄く嬉しいんです。
私の憧れてた人が、私のことを好きって言ってくれるなんて思ってなかった。
でも、その気持ちには答えられない。
ごめんなさい…。
「…そっか。」
先輩は静かにそう言った。
前の私だったら、絶対に身を乗り出して「はい!!」って言ってる。
もしかしたら、嬉しすぎて泣いちゃってたかも。
「…ほんとに、ごめんなさい。」
申し訳ない気持ちでいっぱい。
「謝んなって、その方が辛いわ。」
「すみませ…あ、ごめんなさい…あ。」
もう、私なにやってんの…。
「くっははっ、あなたおもしれぇな。」
…っ。
「あ、あんまりこのこと、気にしないで。
これからも今までどおり接してくれる?」
「はいっ、もちろんですっ…」
告白されて、振っちゃったけど、先輩とはこれからも話したいよ。
先輩の方からそう言ってくれて良かった。
「あとさ、ひとつ聞いていい?」
「はい。」
「オレを振った理由って、秀也だろ。」
「えぇ!?」
な、え?
みんなエスパーなの!?
私がすごい勢いで驚くと、先輩は大爆笑した。
「分かりやすっ!
しかもさ、当てちゃうと思うけど、肝試しの時だろ、付き合い出したの。」
「えぇっ!?」
そこまで当てられる!?
優雨も中島先輩も…
「ふっ、全部顔に書いてあるっ。
その調子だと、隠したとしても1週間以内に全員にバレるな。」
「えぇーっ!」
私はほっぺを手で覆う。
もう、驚くことしか出来ない。
「…いつでも相談に乗ってやるよ。
あ、嫌になったらオレん所来ていいからな?」
「えっ…」
「冗談。」
「えっ…。」
もう、なんでこんなに私の周りの人たちは優しいの。
私が気まずくならないように、気を遣ってくれてるんだよね。
「あ、そーだ、秀也に明日しごいてやるから覚悟しとけって言っといて。」
「は、はいっ…」
「じゃ、以上!
行っていいよ。」
「はい、失礼します…」
部屋を出てドアを閉める。
はぁ…。
最後、先輩の切なそうな笑顔を見て私も悲しくなる。
…ごめんなさい。
ごめんなさい、先輩。
私は…私の好きな人は…やっぱり、秀也くんです。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!