「先輩、卒業おめでとう。」
「ありがとう…」
それから2週間後、私は晴れて、高校を卒業しました。
まだ咲かない桜の芽。
梅の花は満開で。
そんな木々が沢山ある校庭で卒業生、その家族たち、後輩、みんなが笑顔や泣き顔を見せている。
そんな中、私たちがいるのは校門の近く。
桜の木に隠れて、大勢の人からは多分見えてない。
「泣くな、こっちまで悲しくなる。」
秀也が私の頬を伝う涙を手で拭ってくれる。
「うっ…
だって悲しーじゃん、もうこの学校の生徒じゃないんだし…。
それに、秀也といる時間減る。」
学校が別となると、会える時間もそれなりで。
駅から毎日一緒に登下校してたのに、それが無くなる。
お昼ご飯を一緒に食べてたのに、もう出来ない。
「しゃーないよ、我慢。
オレ去年我慢したからさ、先輩頑張って。」
「無理。」
「ははっ、即答かよっ」
だって…
去年と今年は我慢のレベルが全然違うじゃんっ。
遠距離恋愛の人達ってすごいよね、尊敬する。
「先輩、じゃーこれあげる。」
「え?」
「卒業式祝い。」
そう言って秀也がポケットから出したのは、白い長方形のケース。
なに、ちゃんとしてて緊張するんだけど。
「開けていい?」
「うん。」
秀也から箱を受け取り、開く。
「わぁっ」
ネックレス。
シルバーのリングにジュエルが埋め込まれてる。
明らかに高そうなんだけど…
「わ、中に書いてある…。
しゅーや、あなた、ふぉーえばーらぶ?
…っ嬉しい!
ありがとうっ!」
また涙が溢れてきた。
「いえいえっ。
ちなみにオレとお揃い。」
秀也が首元からネックレスを出す。
「ホントだ!
嬉しい、すごい嬉しい、ありがとうっ」
最初にもらったネックレスも可愛かったけど、これも可愛い。
それに、ペアネックレスだよっ!
毎日つける!
どんな時も離さない。
「お礼しなきゃ!」
私のその言葉に秀也は吹き出した。
「またお礼かよっ!
じゃあ、先輩からキスして。」
「え!?」
ここで!?
「人、いっぱいいる。」
「大丈夫、見えない。」
確かに木の後ろに隠れてるけど…。
「お母さんも来てるっ」
「さっき太田先輩のお母さんと優雨先輩のお母さんと話してるとこ見たから多分大丈夫。」
ぐっ…。
「そんな、あからさまに嫌がんなくても…」
しゅんとした顔をする秀也。
「べ、別に嫌じゃないよ!
ただ、恥ずかしいっ…」
だって、今まで私からなんて…
「大丈夫ー、じゃぁ、目瞑っててあげるから。」
そう言って秀也は私の身長に合わせてかがみ、目を閉じた。
わっ…。
何回見ても、美形だなぁ…。
って、そんなこと思ってる場合じゃない。
顔、ずっと見てると逆に緊張してくる。
ここは早くいかないと!
私はそっと秀也の唇に私の唇を当てた。
「んんっ!?」
ただ軽く終わろうとしてたのに、秀也は私の頭をがっつり固定している。
「んーっ!!」
さすがに、苦しい。
トントンと秀也の肩を叩く。
それから少し経って、やっと離れた。
「っ長いよ!」
死ぬかと思った…。
「ごめんごめん、だって、次いつになるか〜
充電しとかないといけないでしょ?」
な、なにを…
キスで充電って…
「先輩、突然なんだけど、明後日デート出来る?」
「え?」
その言葉自体突然だし、明後日って日取りも突然だわ。
っていうツッコミは心の中に留めておく。
「多分、できるよ?」
「良かった。
じゃあ、いつもみたいに10時に駅の時計台ね。」
「あ、うん。」
私はその時の秀也の悲しげな表情を読み取ってあげることが出来なかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!