第2話

磨けば磨くほど、輝きは増す
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2017/11/11 01:52
それ以来あなたの休み時間は、司と一緒に小説について語り合った事が多かった。
「今日はこんな話が浮かんでね・・・。」
「へぇー、面白そうだな。でも、もう少しこうしてみたら?」
そんな会話が毎日繰り返すように続いていた。でも、不思議とそれが苦ではなくて楽しくて、“当たり前”になっていた。

そんな中で私の耳に入ったのは、クラスメイトの女子二人のちょっとした噂ばなしだった。
「蘭子はさ、小説超面白いよね!」
「確かに!将来なんか賞でも取りそうだよね。あなたのも見させて貰ったんだけど…。」
その話は、私にとっては屈辱感を覚えるものだった。それからの今日という一日は私 あなたにとって、暗い海の底に沈められているような感覚があった。
「どうした?そんな今にも死にそうな顔して。」
昼休みに入って屋上に続く階段に座っていた私に一番に話しかけてきたのは、司だった。
「いや、私って才能無いのかな…。私の小説は面白く無いって…。」
面白く無い、とまで聞こえなかったけどそう言われた気がして、その言葉の意味から変に連想してしまって私は目頭が熱くなるのを感じた。
「あなた。」
「ん?」
「才能なんて、俺だってねぇよ。でも、そもそもで才能って必要なのかなって俺は思う。今の状態でもあなたは楽しいだろ?才能なんてあったって、自分にまとわりつくプレッシャーでしか無いと思う…よ。」
「でも…」
「宝石の話って知ってる?」
ためらう私の声を遮るようにそう言った。
「知らないけど…。」
「なんかの四字熟語か慣用句なんだけどな、なんの輝きも特別なものもないただの石があるとするだろ。それを磨くわけ。めちゃめちゃね。こうキュッキュッと。何回か磨いただけでは案の定何も変わらない。でも、諦めずに、まぁ休憩を入れてだけど、磨き続けたらだんだんと輝いてくる。それがいずれ輝きを帯びた宝(タカラ)の石になる。つまり宝石に。だから、才能なんて無くたって、今あなたが小説を楽しんで書いていることがお前のなかの宝石を輝かせるんだよ。」
私はうなずきながら、司の話を聞いていた。その話は私の心にすっと入ってきて何故か“納得”出来た。そして希望を司が持ってきた気持ちがした。
「なんか元気でた。ありがとう。でも、なんの言葉かは?」
「・・・知らん。」
私は笑った。不安を吹き飛ばすほど笑った。司も笑っていた。
「ハハハ、はーじゃあ帰ろう。もうすぐ昼休み終わっちゃう。」
少し笑いが落ち着いてきたから私はそう言った。
「おう。」
と言い、司が先に立った。司がくるまでお弁当を食べていた私は、まだお弁当を片付けていなかった。それを急いで片付けていると、
「無理すんなよ。」
ポンポン。っと、突然私の頭に司がポンポンと手をおいた。驚きで上を向いた私は目の前にいる司が、眩しく見えた。
「う、うん。」
思わず顔をバッと下に向けた。今どんな顔をしてるのか想像がつかなかったから。そして、司が眩しかったから。
「じゃあ、先に行くな。」
私は大きくうなずいた。そして司が行ったのを確認したから顔を上げた。
え?え?え?何?頭の整理がつかない。今顔どんなだろう?変な顔してないよね。もう少ししたから、行こう。今司を見たらどうなるかわからないから。そして、私の心臓のドキドキが止まらないから。


でも、私はその時に私たちを見ていた一人の少女が居たことを知らなかった。そしてその少女が司を好きだったことも。

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