ついに北海道まで来てしまった。
ここまで来て、今さら後戻りなんてできない。
悠からもらったメモとケータイのナビを頼りに大学へ向かった。
門に彫られている大学名は、悠がくれたメモと一致している。
むやみに中に入って、行き違いになってはいけない。
確実に会うためには、大学の出入り口で待っていることが一番効率がいいと思い、あなたは冷たい風が吹く中、待つことにした。
不意に見知らぬ女性に声をかけられた。
返事をすると、女性は心配そうな表情をする。
あなたは、気遣ってくれた女性にダメもとで聞いてみることにした。
女性は涼のことを知っているようだ。
あなたが軽くおじぎをしてお礼を言うと、女性はにっこり笑って去っていった。
校舎の中に入ると、女性の言っていた通りあたたかくて、すぐそこにあったベンチで待つことにした。
時々ケータイをいじりながら、人が行き交う方を見て涼の姿を探す。
どれくらい待っただろうか。
顔を上げて多くの人が行き交っていた方を見ると、だいぶ人がまばらになってきた。
その奥から歩いてくる男性に目が惹かれた。
黒髪の男性。
あなたはぽそりと呟くと、呆然と立ち尽くす。
男性は口元までマフラーを巻いてケータイを見ているため、顔がよく見えない。
男性がケータイから目を離して前を向くと、立ち止まった。
あなたは顔を上げた男性を見て確信した。
涙が溢れ出して、止まらなくなる。
涼は何も言わなかったが、急にあなたの手を掴んで校舎の奥へ歩き出した。
涼は黙ったまま、使われていない教室に入って鍵をかけた。
教室の中は、もちろん2人だけ。
しーんと静まり返っている。
涼があなたの手を離して、巻いていたマフラーを外す。
高校生の頃より大人っぽくなった顔は、あまり嬉しくなさそうな表情をしていた。
涼は思い出したという言葉を聞いて、驚いた。
あなたが優しくほほえむと、涼は手で顔を覆う。
すき間から見えたのは、涙だった。
涼があなたに近づく。
距離が縮まるにつれて、あなたの心臓も大きく脈打つ。
涼はあなたの前まで来ると、あなたの右肩に頭を預け、優しく抱きしめた。
顔は見えないけれど、泣いているのは確かだった。
あなたもつられて、涙を流す。
嬉しかった。
ようやく、結ばれた気がする。
あなたは涙が止まらなくなった。
涼の背中にそっと腕をまわす。
沈み始めた夕陽が教室内を照らす。
きらきらと輝く様はまるで、2人を祝福しているようだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。