第15話

夢愛人
232
2017/11/05 05:22
あなた

寒っ!

ついに北海道まで来てしまった。
ここまで来て、今さら後戻りなんてできない。
悠からもらったメモとケータイのナビを頼りに大学へ向かった。
あなた

ここ…かな。

門に彫られている大学名は、悠がくれたメモと一致している。
あなた

…大学はわかったけど、学部とかはわからないや。
ここで待ってれば、会えるかな。

むやみに中に入って、行き違いになってはいけない。
確実に会うためには、大学の出入り口で待っていることが一番効率がいいと思い、あなたは冷たい風が吹く中、待つことにした。
女性
誰か待ってるの?
不意に見知らぬ女性に声をかけられた。
あなた

はい。

返事をすると、女性は心配そうな表情をする。
女性
だったら、中に入っていたら?
こんなところじゃ、風邪ひいちゃうよ?
あなたは、気遣ってくれた女性にダメもとで聞いてみることにした。
あなた

お気遣いありがとうございます。
あの、相模涼って知ってますか?

女性
相模?
もしかして、相模のことを待ってるの?
女性は涼のことを知っているようだ。
あなた

はい。

女性
相模なら、まだ中にいるはずだよ。
校舎の入り口ならベンチもあるし、暖房も効いてるはずだから、そこで待ってなよ。
あなた

ありがとうございます。

あなたが軽くおじぎをしてお礼を言うと、女性はにっこり笑って去っていった。
校舎の中に入ると、女性の言っていた通りあたたかくて、すぐそこにあったベンチで待つことにした。
時々ケータイをいじりながら、人が行き交う方を見て涼の姿を探す。
どれくらい待っただろうか。
顔を上げて多くの人が行き交っていた方を見ると、だいぶ人がまばらになってきた。
その奥から歩いてくる男性に目が惹かれた。
黒髪の男性。
あなた

…涼。

あなたはぽそりと呟くと、呆然と立ち尽くす。
男性は口元までマフラーを巻いてケータイを見ているため、顔がよく見えない。
男性がケータイから目を離して前を向くと、立ち止まった。
あなたは顔を上げた男性を見て確信した。
あなた

涼。

涙が溢れ出して、止まらなくなる。
涼は何も言わなかったが、急にあなたの手を掴んで校舎の奥へ歩き出した。
あなた

え…涼?

涼は黙ったまま、使われていない教室に入って鍵をかけた。
教室の中は、もちろん2人だけ。
しーんと静まり返っている。
涼があなたの手を離して、巻いていたマフラーを外す。
高校生の頃より大人っぽくなった顔は、あまり嬉しくなさそうな表情をしていた。
…なんで来た。
あなた

会いたかったから。
全部、思い出したの。

涼は思い出したという言葉を聞いて、驚いた。
思い出した?
…本当に?
あなた

うん。

…それでも、俺に会いに来たのか?
あなた

だからこそ、でしょ?

あなたが優しくほほえむと、涼は手で顔を覆う。
すき間から見えたのは、涙だった。
…バカだろ。
あなた

うん。
まだ好きでいてくれているかわからなかったけど、会いに来ちゃった。
忘れちゃって、ごめんね。

こんなとこまで来るとか…ほんとバカ。
涼があなたに近づく。
距離が縮まるにつれて、あなたの心臓も大きく脈打つ。
涼はあなたの前まで来ると、あなたの右肩に頭を預け、優しく抱きしめた。
顔は見えないけれど、泣いているのは確かだった。
あなたもつられて、涙を流す。
愛してるよ…あなた。
嬉しかった。
ようやく、結ばれた気がする。
あなたは涙が止まらなくなった。
涼の背中にそっと腕をまわす。
あなた

私も、愛してる。
ずっと、そばにいて。

沈み始めた夕陽が教室内を照らす。
きらきらと輝く様はまるで、2人を祝福しているようだった。

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