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第2話

冬の風
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2017/11/03 08:28
 雪が降ると時々想う。
君の横顔とか、君の髪の綺麗さとか、優しい笑顔とか。
雪が降ると時々想う。
君のことを思い出して、思い出して、溢れ出さないように、僕は傘を差してそれを恋とは呼ばないように、雪が風に吹かれて雨に変わるのを望んだ。

まさか入学式に桜ではなく雪が降るとは思わなかった。
寒いというよりかは、痛いという程の風の冷たさだった。
僕はなるべく冷たさにやられないように、すぐに校舎に入った。
黒板に貼られた席順表を見て、これからしばらくお世話になる自分の席に座った。
教室には一番乗りだった。
窓を開けると、「クラスが一緒」だとか、「久しぶり」だとかいう声が聞こえてくる。
ここの学校は、元女子高なので、女子が多い。僕の席の周りにも女子しかいなかった。
40人中12人の男子生徒のいるクラス。
友達が出来るだろうか、女子と話せるだろうか。 そんなことを考えながら冷え込んできたので、窓を閉めた。
雪はまだ降っている。桜の木らしき大きな木も寒そうにそこに立っている。
なぜか見つめていたくなるような心持ちがした。

廊下の足音。ため息。教室のドアが開く音。
それらで、人が入ってくるのが分かったが、声をかけるのを躊躇った。
どうやら僕の後ろの席らしい。
僕は声をかけるのを迷いながら窓の外の空を見上げていた。
カバンの置く音がして、何かに引きつけられるように後ろを振り返った。
君の名前は、『比留川 美波』
比留川さんと呼ぶことにした。
初めて見た比留川さんは、とても綺麗だった。黒い長い髪に、白い肌、雰囲気がとても綺麗で、一瞬声を失った。
ずっと見つめている不自然さに気まずくなり、ただ僕は「よろしくね」と言った。
僕は驚いたような大きな瞳から目を離せなかった。

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