誰も居なくなったであろう体育館に
そろりと、入った。
海瀬君の姿は見えない。
どこだろう。キョロキョロ周りを見る。
だか、全く見当たらない。
私、来るの遅かった……?
先に帰っちゃったのかな……?
本当に居るの……?
どこなの……?
もうそろそろ、帰っていい?
海瀬君を、待ちきれなくて体育館を
出ようとしたとき、
ステージから海瀬君が、飛び出してきた。
相変わらずの爽やかスマイルで言う。
驚かせたくない人がなんで、ステージに
隠れてんのよ……。
この人、ちょっと変わり者?
海瀬君が飛び出て来た
体育館のステージを見つめる。
あぁ、いけない。
今は海瀬君が話すことに集中しないと。
ステージから、目を離して目を見る。
ぱっちりとした目。
その瞳は曇ってなんかなくて
どこまでも澄んでいる。
形のいい唇は、大体いつも
口角が上がっていて、上品な感じがする。
私と海瀬君で数秒見つめ合う。
やっと言葉を発した海瀬君。
それで、私と付き合えと??
なんか話飛んでない?
つい、強目の口調で言ってしまう。
え、なにそういうこと。
一気に悲しくなるというか、
むなしくなるというか……。
どっちにしろ答えはNOだけど
なんか、ムカつく。
先程と同じ答えを返す。
さっきから、口を開けて固まっている
海瀬君にさようならを告げる。
2回目なんてもうあってたまるか。
社交辞令でまたねと言い去ろうとしたが……。
と、腕を掴まれる。
私はここでキュンとしてしまった……。
訳でもなく、ただしつこいと思った。
防犯教室のあれが役立つときが来た!
自分の腕を思いっきり、私の方へ引っ張る。
バランスを崩した、海瀬君が手を離す。
その隙に、走り出す。
ははっ。まだ覚えてるものだね。
小学校の時にやったやつなのに。
私の小学校では、防犯教室と言って
不審者に手を掴まれた時の対処法を
全員習うのだ。
こんな時に使うなんて思ってなかったけど。
油断してスピードを緩めたとき、
後ろから、バタバタと騒がしい足音と
声が聞こえた。
そして、今に至るってこと。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!