麻奈が選んだ服は随分とカジュアルだった。
ハイウエストデニムに、ピンクの厚手のセーター。
黒いハンドバックに黒いヒールを
合わせたものだ。
ちょっとデートに行くにはカジュアル
過ぎるんじゃないの……?
そう言おうと彼女を見ると、
言われた通りに着てみると、
驚くほどとてもよく私に似合っていた。
カジュアル過ぎると思っていた、
デニムは全然可愛かったし、
ピンクでふわっとした雰囲気を黒の小物が
しめてくれているのがいい感じ。
麻奈を褒めると、ふっとドヤ顔をした。
その後私を無言で洗面台まで連れていって
自分のバックから、メイクセットを
取り出して私にメイクをしてくれた。
ついでに、と髪までセットしてくれた。
私は、まるで魔法のように
可愛く変身していった。
声がかかった。鏡を覗き込むとそこには
今まで見た事の無い自分がいた。
ゆるふわっと巻かれた髪は
右サイドに流されていて、
普段の5倍はあるだろうまつげは
ばっちりと上を向いている。
目もとはピンクのアイシャドウで
きらきらと彩られている。
そして、仕上げにこの前買った
香水をしゅっと首すじにつけた。
ベリーのいい香りが私を柔らかく包む。
誰だ。この美少女は。
鏡に映る私にうっとりしてしまう。
その様子に満足そうに微笑んだ麻奈は
ちらりとスマホを見て叫んだ。
只今、9時50分。バタバタと家をでる。
走っていて、言葉が切れ切れになってしまう。
その位急いで走っていた。
麻奈とは待ち合わせ場所の少し手前で別れた。
本当に、本当に助かった。
今度遊びに行く時なにか買ってあげよう。
ぬいぐるみがいいかな?
麻奈の事を考えながら湊君を待っていた。
その時、瑠美先輩の言葉が、頭をよぎった。
"湊って呼んじゃったら?"
"さらっと自然に言ってみたら?"
うぅ……。恥ずかしいけど……。挑戦だ!
ふんっと拳に気合を入れたところで
笑い声がした。
きゃ!?湊君だ!
じゃなくて呼び捨てなんだから湊だ!
やった!言えた!!
湊君……、湊は目を丸くしてすぐにふわっと笑った。
そして私の手を取って嬉しそうに歩き出した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!