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第41話

41.向かってくれた先
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2017/12/26 14:55
ぺちゃくちゃと喋りながら歩く。
どこへ向かってるかは分からないけど
楽しいからどこでもいいや。
うきうきとした気持ちで歩き続けた。
ここだよー
着いた先は、映画館だった。
あなた、映画館がいいって
この前言ってたから来てみたー
あなた

うん、言った……
覚えてて、くれたんだ

そんなに前に言った事覚えていてくれたんだ。
心がぽっと温かくなった。
でも、ダメ。覚えてたのなんて偶然。
私の事なんてどうとも思ってない。
自分に言い聞かせる。
当たり前だよー
ほららもう中入ろ?寒いでしょ
いつものように笑う。
この笑顔にはわたしに対する思いなんて
微塵も込められてないはず。

でも、なんで笑いかけられただけで
こんなにも嬉しくなってしまうのだろう。
心臓がぎゅっと苦しくなって、
自分の胸に手を当てる。
そしてこの前みたいに、小さく深呼吸。

湊が心配したような顔で私を覗き込む。
いけない、ぼーっとしてた。
せっかくのデートなのに。
あなた……?大丈夫?
あなた

うん、大丈夫!
ごめんね、中入ろっか

とびきりの笑顔で言った。
今が幸せだから。今だけが幸せだから。
壊したくない。だから、
隠せ、隠せ、隠せ。本当の気持ちを隠せ。

湊と笑って分かれられるように。

握られたら手に力をぎゅっと込めた。

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