機械城-ベッドで大人しく日記を書き綴っていたティフォに抱きつくのは姉、シュヴェ。
つい先日【最果ての世界】との同化を拒絶してからというもの、感情を理解したらしくそれに対する嬉しさが止まらない。
嬉しそうに、笑顔に、興奮気味で-シュヴェはティフォに言う。
感情を既知しているティフォは困惑しつつもシュヴェが感情を知ったことに対しては嬉しく思っていた。
【人間種】なら絞殺される勢いでシュヴェはティフォを抱きしめる。
しかし鋼鉄の体のティフォには『その程度の力』と思うだけだ。
-これ、壊れてるって言った方が良くないか?
ティフォは哀れみの目でシュヴェを見る。
たしかに感情を得たばかりの頃はそれを愛おしく思ったし、手放したくないとも思った。
けれど夫の死に直面したときはこんなもの要らない、どうせなら感情なんてないままで良かったと、いっそ自分も死なせてくれと-永遠を生きる生命体には叶わない願いまで願ったものだ。
ソウルを喰らったのも、すべてはこの悲しみと夫の願い故。
生命の源を、夫そのものを喰らったようなものなのだ。
ティフォは冷たい声で、ぽつぽつと言葉をこぼすように話す。
ティフォの言葉にシュヴェは反論する。
-、
-でも、
-それは、
-我々機械にとってあまりに無謀で、
-我々機械にとって、大きな負担をもたらす『禍』なのだ-と…。
シュヴェの脳内が、体内に張り巡らされた血管とも言える電子回路が、それらすべてがティフォの言葉を聞いてショートしかける。
シュヴェの目から光が消えていく。
笑顔が消えていく。
悲しみが満ちていく。
絶望が追い打ちをかける。
ああ、痛い。
心、が…痛い。
顔を背けて、ティフォがそっと呟く。
手が、足が、全身が震える。
この震えはなんだ、と。
ああ、これがひとつの感情による震えかと。
シュヴェは理解した上で、ティフォに刃向かう。
ティフォの首を締め付ける。
でも、怒りは止まらない。
まして、自分の力でどうともならない『同族』(ティフォ)に対する憎悪が増すばかりだ。
機械としての耐用年数を何万年と超え、でも、生命体としてはまだまだ先の長いティフォは-怯えていた。
姉の怒り。それをぶつけられる自分。
姉の怒りの理由がわからない。
でも、一番怖いのは-
何も話さないまま、ただ自分の顔を見つめたままありったけの力で自分の首を絞めてくる姉の姿だった。
埒が明かない、とティフォもシュヴェの首を絞める。
だが-『ケンプファルジェン』とただの計算、解析特化機体では力の差が大きい。
二機の力がぶつかり合い-閃光が走った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。